『ヴィンランド・サガ』に宿る現代的意義とは トルフィンがたどり着いた“憧憬の大地”

壮大なプロローグの終わり

 2つ目に最終回、第24話「故郷」より。トルフィンは、ついに故郷アイスランドに戻り、姉のヘルガ、母のユルバとの再会を果たす。そこで母ユルバは、トルフィンの顔にトールズの面影を見るのだった。最終回にも、アニメオリジナルのシーンがいくつかあった。中でも、エイネルとともにかつてトールズが「守ろうとした人」、奴隷の墓を訪れることに触れておきたい。かつて奴隷の身分を一度経験したトルフィンとエイネルがトールズのことを語る場面は感慨深いものがあった。

TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2 第2クール ノンクレジットオープニングムービー/ 2nd Cour Textless Opening Video

 ふいに、子どもの頃のトルフィンの幻影が、成長したトルフィンに「ねえ、ここからも逃げたい人はどこにいくの?」と問いかける。すると、トールズが現れ、そっとトルフィンの肩に手を置き、「もう わかってるんだろう」と優しく言葉をかける。トルフィンがはっとしていると、情景がヴィンランドの地に移り変わる。ヴィンランドは、「暖かく、豊かで、奴隷商人も、戦の炎も届かない遠い地」と説明されており、時折、トルフィンの夢の中や第1期2クール目のオープニング映像中にも登場していた。麦が豊かに実った金色の土地として描かれ、トルフィンの一人称視点で見るヴィンランドの大地には、常にその目前を歩くトールズの大きな背中があった。最終回においては、何度も脳裏に浮かんだその想像上の憧憬の中、初めてトルフィンはトールズの隣に肩を並べて立ち、同じ目線で豊かな大地を優しく見つめていた。この瞬間は、トルフィンがやりたいこと、つまり、目指すことがトールズが目指していたことと重なった瞬間であるように思えた。

『ヴィンランド・サガ』は今もっとも観てほしい一作 第2期で際立つ“生きる”というテーマ

「今、もっとも観てほしい(読んでほしい)マンガ・アニメ作品は何か?」と問われたら、筆者は1月よりテレビアニメも放送されている『ヴ…

アニメ第2期を観終えてーー『ヴィンランド・サガ』の現代的意義

 『ヴィンランド・サガ』は11世紀のヴァイキングに関する物語である。トルフィンが生きた時代には、現代よりはるかに多くの戦乱があり、社会によって奴隷制度が当然のものとして許容されていたし、人権という概念や現代のような国民を守ってくれる国家、法制度もない。しかし、私たちが生きる現代とこの時代は、それほど大きく異なっているのだろうか。奴隷制度はとうの昔に廃止され、戦争も国際法違反として世界的に許容されるものではなくなった。しかし、今日も人々の間での争いは絶えず、戦争や紛争で国を追われ、大切な人や家族を失い、命を落とす人はとどまるところを知らない。トルフィン、エイネルをはじめとする『ヴィンランド・サガ』の登場人物は、そうした戦争によって人生を大きく狂わせられた。『ヴィンランド・サガ』をとおして、私たちは現代の社会の在り方だけでなく、その問題や解決方法、身近な人との接し方についても再考することができるのではないだろうか。

■配信情報
『ヴィンランド・サガ』SEASON2
Netflix、Prime Video、Leminoにて配信中
キャスト:上村祐翔、武内駿輔、小野賢章、佐古真弓、林勇、手塚秀彰、楠大典、小松史法、麦人、上田燿司、大塚明夫ほか
原作:幸村誠『ヴィンランド・サガ』(講談社『アフタヌーン』連載)
監督:籔田修平
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン・総作画監督:阿比留隆彦
美術監督:竹田悠介
美術ボード:大貫賢太郎、平林いずみ
色彩設計:橋本賢、西田みのり
撮影監督:川下裕樹、松向寿
編集:木村佳史子
3DCG監督:小川耕平
音響監督:はたしょう二
音響効果:長谷川卓也
音響制作:サウンドチーム・ドンファン
音楽:やまだ豊
オープニング・テーマ:Anonymouz 「River」
エンディング・テーマ:LMYK 「Without Love」
制作:MAPPA
製作:ヴィンランド・サガ SEASON2製作委員会
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ SEASON 2 製作委員会
公式サイト:https://vinlandsaga.jp/

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