『ヴィンランド・サガ』に宿る現代的意義とは トルフィンがたどり着いた“憧憬の大地”
TVアニメ『ヴィンランド・サガ』SEASON2の最終回が6月19日に放送された。『ヴィンランド・サガ』は、11世紀の北ヨーロッパを舞台にヴァイキングの少年である主人公・トルフィンの成長と挫折を描く本当の戦士の物語である。本記事では、第2期においてトルフィンの成長が感じられた2つのシーンを取り上げ、考察を加えたい。
本当の戦士
まず、1つ目のシーンは第22話「叛逆の帝王」より。トルフィンは、近衛兵のドロットの拳を100発耐えることができれば、クヌートへの拝謁が許されることになった。殴られている途中、降伏を告げに来たオルマルと蛇がやめるように言うが、トルフィンは応じなかった。100発殴られるころには、周りを取り囲む戦士たちは、言葉を失い、トルフィンに圧倒されていた。やがて殴っていた当の本人であるドロットすらも「疑ってすまなかった……。お前は……本物の戦士だ」とトルフィンのことを認めるのであった。
これまでも自分は色々なアニメや漫画など、敵味方同士での争いがある作品を視聴してきた。「強い」登場人物やキャラクターたちは総じて戦いで勝利し、敵を倒すことでその強さを見せるものである。ただ、力を振るうことではなく、ただ相手から殴られることによってその強さを示したキャラクターはただの一人も見たことがなかった。『ヴィンランド・サガ』は、ヴァイキングたちの生き方を描いた残酷で血なまぐさい世界観の作品であり、そこにはいつも戦争や殺し合いがある。そのような世界観の中にあっても、殴られることで相手に自分の力を認めさせるということこそが、本当の強さ、本当の戦士の在り方であるとトルフィンが教えてくれた気がした。
オレに敵なんかいない
「なぜ殴り返さないのだ?」。ドロットに認められたトルフィンに戦士長のウルフが問いかける。トルフィンは、「アンタ方とは今日会ったばかりだ。なんの恨みもねえ。なんで俺たちが殴り合わなきゃいけねえんだ」とその問いを一蹴し、「アンタ方はオレの敵じゃない」と輝きを宿した目で返答する。その後、一瞬、幼き日のトルフィンと父、トールズの場面が映り、「オレに敵なんかいない」とウルフに対して言い放つのであった。このシーンは、トルフィンがかつての父の言葉を完全に理解し、それを体現した瞬間である。トルフィンの父、トールズは、かつてトルフィンにこういって聞かせたことがある。
「よく聞けトルフィン お前の敵は誰なんだ
お前に敵などいない 誰にも敵などいないんだ
傷つけてよい者など どこにもいない」
トルフィンはこの言葉を父から伝えられて以来、第1期でも第2期でも常にその意味を考え、答えを導き出そうと苦悩していた。私たちもアニメを観ることでトルフィンの苦悩と挫折を追体験し、トールズの問いに対して向き合ってきたように感じていたのではないだろうか。その答えをついにトルフィン自らが出した第22話は、主人公の大きな成長が感じられる回であった。アニメの視聴者は、トルフィンの成長をともに見守ることで、トールズの言葉の意味を第2期の最終回間際になってようやく理解するに至ったというわけである。