『あなたがしてくれなくても』陽一の“錯覚”は何だったのか 永山瑛太が発したセリフの衝撃

 大きな局面を迎えた第9話の陽一(永山瑛太)のセリフ「子ども作って“も”いいよ」の衝撃は、とてつもなく大きかった。さまざまな感想、意見の飛び交うドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)。冒頭のセリフは、投げられた相手の心をえぐる、あまりにヒドイもので、これまで陽一を擁護してきた人の多くも、「陽ちゃん、その言葉のチョイスはさすがにダメだよ……」と声を漏らしただろう。しかしそれでもなお、陽一の心の中を知りたい。なぜ彼は、カフェ前の階段であの錯覚をおこしたのか。そこには、いったいどんな意味があるのか。

好きも嫌いも、人が傾く根っこは同じ

 本作は、2組の夫婦の姿を見つめてきた。建設会社で働くOL・みち(奈緒)と、その夫でカフェ店長の陽一、みちと惹かれ合い、新しい職場へと転職を決めたみちの上司・新名誠(岩田剛典)と、ファッション誌の副編集長としてバリバリ働いてきたが、誠の心変わりを知った楓(田中みな実)。

 第9話ラスト、ついにみちと誠が、陽一と楓にそれぞれ「離婚」の二文字を突きつけた。

 しばしば恋愛話では、「好きも嫌いも、なった理由の根は同じ」と耳にする。みちも、陽一の(雰囲気や見た目がドストライクだったというのも否めないだろうが)「子どもっぽい」「不器用さ」に惹かれ、「いつまでも大人になれない」「無神経さ」に耐え切れなくなってしまった。

 子どもを作り家庭を築きたかったみちに、「子どもは欲しくない」ことを隠していたことは、特にいただけない。だが陽一は、「絶対に子どもは嫌だ」と拒否する気持ちがあるようにも見えない。初回、シートで雨を避けながらの花見になったとき、「うちも、そろそろ、つくろっか」と言ったみちに「いいよ」と応じた陽一のそれは、確かにみちの欲しかった言葉に合わせて出しただけに思える。しかし園の子どもたちを一緒に見る視線自体は、冷たいものではなかった。

 第5話で、姉(紺野まひる)の子を預かった際の様子も、子どもに全く興味がない、もしくは嫌いな人の態度には見えなかった。姉たちを送り、手を繋いでの帰り道、「努力するから。エッチのこと」と話した姿にも、ウソは感じられなかった。陽一は、迷っていたのではないだろうか。そもそも、陽一の頭に“子どもを儲けること”への意識はゼロだったかもしれない。そこに迷いが生じたとすれば、みちがいたから。「俺、あいついないとダメだから」「俺はみちと一緒にいたくて結婚した」と思える、みちという存在があったから。

みちとのセックスが、「子を儲ける」プレッシャーに

 なぜ陽一は、子どもを欲しいと思えなかったのか。そこには彼の生い立ち、家庭関係が影響している気がしてしまう。本作にそこまでは描かれておらず、憶測にすぎない。だがみちとの食事風景や、三島結衣花(さとうほなみ)の「店長って人の気持ちがわからない人ですね」といった言葉に、育まれてきた陽一の性格が覗く。そしてみちと出会うことで、カフェのオーナー高坂仁(宇野祥平)いわく「やっと人間らしくなった」、姉いわく「よく笑うようになった」と。

 思うに陽一は、「自分を好きじゃないのでは?」と考えてしまう。それが「子どもは欲しくない」との気持ちに繋がり、セックスという行為が、「子を宿す」ことに結びつく関係となったみちに対し、知らずと身体が拒否するようになった可能性もある。

 陽一から「子どもを好きか」尋ねられたオーナーが、「好きも嫌いもねえよ」と答えたとき、陽一は「そうっすよね」と応じた。もしはっきりと子どもそのものを苦手ならば、「オレ、どうも昔から苦手で」くらい言ったはず。質問すること自体に、迷いが透けている。

 そんな陽一にも明確なことがあった。「みちを好き」という点だ。じゃあ、「なぜ浮気したんだ!」とツッコまれると非常に痛いが、そこは結衣花には申し訳ないけれど、陽一的には「妻だけED」の理由が分からず、単純に最後までできるかどうか「してみた」だけだろう。だが結衣花は自分に好意を持っており、彼女を傷つけていたことを知って、謝罪した。

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