『らんまん』で知る近代化政策の陰と陽 タキの物悲しい背中に感じる“時間”の的確な描写も

 一方、万太郎は政府が酒屋から金を搾っても国の力を外国に示せるわけではないと熱弁。自分の使命は改めて、自身が植物学者として精進し、雑誌で世界の度肝を抜かせることだと、そのことの方が遥かに国力を示すことになると実感する。姉から届いた手紙には、タキの心臓が悪くなっていることは触れられていない。ただ、みんなが息災であると、そして万太郎たちの健康を願う内容だった。万太郎も教室で感じた孤独は手紙で教えていない。お互いが苦労を隠しあう様子は、だからこそ互いに心配をかけ合わないようにする相手への気遣いの表れだ。切ないが、綾が苦労を隠すからこそ万太郎は自分の道に邁進することができるし、万太郎もただ無邪気に自分の興味のためだけではなく、母との思い出を通して“他に向けて何かをする”ことへの重要性に気づき、成長している。その成長は、田邊(要潤)との会話を通しても実感できるものだ。

 植物学雑誌創刊の許可を得るため田邊(要潤)と話す機会をうかがっていた万太郎は、教授が機嫌の悪い時を避けるだけではなく、彼が興味を持つ西洋美術を話題にすることで逆に気分を良くさせた。自分の要望を押し通すのではなく、相手の心、望むものや興味に寄り添って距離を詰めるやり方は、ある意味彼がいやいややっていた当主時代に培ったコミュニケーション能力とも言えるだろう。そんなところからも、万太郎にとって「峰屋」が意味のある場所だったことがうかがえ、両者が体現する陰陽をより切ないものに感じさせるのであった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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