フランソワ・オゾン監督の情熱的な演出風景も 『苦い涙』メイキング映像&セット写真公開

 6月2日に公開されるフランソワ・オゾン監督最新作『苦い涙』のメイキング映像とメイキング写真が公開された。

 『Summer of 85』『すべてうまくいきますように』などを手がけてきたオゾン監督が、敬愛するドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの1972年の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を現代風にアレンジした本作。『焼け石に水』に続き、ファスビンダーの戯曲を20年ぶりに映画化した。

 1970年代ドイツのアパルトマンを舞台にした室内劇として、主人公の映画監督ピーター(ドゥニ・メノーシェ)が、美しい青年アミールに翻弄され恋に溺れていくさまを、風刺やユーモアをふんだんに織り交ぜて描く。

 主人公ピーターが一目で情熱的な恋に落ちたアミールを住まわせるオフィス兼自宅の瀟洒なアパルトマンは、本作の見どころのひとつ。現代的な視点とオゾン監督特有の美意識に基づくアレンジにより、ヴィヴィッドなカラーの壁紙、絵画や写真、鏡をあしらったの室内装飾が施された。

 公開されたのは、オゾン監督の情熱的な演出風景を切り取ったメイキング映像と、主人公ピーターが暮らすアパルトマンの舞台セットができるまでを切り取ったセットデザイン写真。舞台となったアパルトマンでの撮影は、パリの南に隣接するイヴリー=シュル=セーヌ市にある元児童養護施設のキッチンで行われた。使われていない殺風景なキッチンが、オゾン監督とセットデザイナーのカーチャ・ヴィシュコフの手により、70年代ドイツのキッチュなアパートメントに変貌を遂げた。

 セットデザインと撮影技術について、オゾン監督は「70年代ドイツの中流階級が持つキッチュな雰囲気を強調させました。漆塗りの表面、反射や鏡、そして『秋のドイツ』で見たファスビンダーのアパートの暖かくて暗い色を使い、当時の美しさと華やかさを撮影技術だけでなくセットデザインでも表現したいと思いました。撮影は、イヴリー=シュル=セーヌにある元児童養護施設のキッチンで行いました。セットデザイナーのカーチャ・ヴィシュコフと一緒にそこを改修して改装もしました。撮影監督のマニュエル・ダコッセと一緒にコントラストや雰囲気作りを工夫して、季節感を表現しました。 ファスビンダーにはいくつかの時代があります。「社会派」の時代には、少ない予算でお粗末な映画を量産していました(多くはDOPのミヒャエル・バルハウスと一緒に)。『聖なるパン助に注意』『四季を売る男』『不安は魂を食いつくす』『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』は、その低予算ぶりがよく表れています。その後、彼にとって世界的知名度を得る作品が登場します。『リリー・マルレーン』『ローラ』『ベロニカ・フォスのあこがれ』『ファスビン ダーのケレル』などがそうですね。これでやっと彼はずっと好きだったダグラス・サークのハリウッド映画に足を踏み入れる手段を手に入れたわけです。『苦い涙』では、彼の最初期の素材に晩年の特徴である色彩と様式美を採用したいと考えました」と語っている。

映画『苦い涙』メイキング映像(フランソワ・オゾン監督の情熱的な演出風景)

 メイキング映像では、アパルトマンの室内が捉えられ、オゾン監督が、ピーター役のドゥニ・メノーシェと、ピーターの母親役のハンナ・シグラと一緒に、演技について細かく相談しながら演出を進めている様子が捉えられている。これまでも、オゾン監督作品に出演してきたメノーシェとシグラだけに、和気あいあいとした様子や、オゾン監督が演技について2人に情熱的に指導する様子、映画の後半に登場する母親と息子のキスシーンはメノーシェの提案であったことなどが明かされている。

■公開情報
『苦い涙』
6月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督・脚本:フランソワ・オゾン
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』から自由に翻案
出演:ドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマンテ・オーディアール
配給:セテラ・インターナショナル
原題:Peter Von Kant/2022/フランス/フランス語/85分/日本語字幕:手束紀子
©2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION
©Carole BETHUEL_Foz

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