『らんまん』を成立させた神木隆之介の愛され力 男性主人公朝ドラを切り開くきっかけに

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『らんまん』の放送がはじまって、もうすぐ2カ月を迎えようとしているが、回を重ねるごとに評価が高まっている。

 『らんまん』は、日本の植物学の父と言われた植物学者・牧野富太郎をモデルとした植物学を志す青年・槙野万太郎(神木隆之介)の半生を描いた朝ドラだ。

 物語は江戸時代末の土佐から始まる。造り酒屋「峰屋」に生まれた万太郎は病弱だが、植物が大好きな少年だった。9歳の時に学問所「名教館」に入門、そこで学頭の池田蘭光(寺脇康文)に教わったことで植物画に興味を持つようになる。12歳の時に名教館が廃止され小学校に転入した際には、植物画に夢中になりすぎて退学となるが、その後も独学で研究を続け、やがて植物学の道に進むことを決意して上京する。

 『らんまん』には、これまでの朝ドラが挑んできた二つの新機軸が引き継がれている。一つは幕末から物語がスタートするという異色の時代背景。朝ドラの舞台は、戦前(明治、大正)・戦中(昭和初頭)・戦後(昭和〜令和)が定番だったが、2015年度後期の『あさが来た』は幕末から明治を舞台にした朝ドラで、大河ドラマのような時代劇調の朝ドラだった。

 『あさが来た』に出演していた宮﨑あおいが語りを担当していることもあってか、『らんまん』全体に流れる穏やかで優しい雰囲気は『あさが来た』を彷彿とさせる。『らんまん』の物語も幕末から始まり、現在は明治が舞台となっている。幕末から明治という近代日本の黎明期だからこそ、植物学にかける万太郎の情熱にも説得力が宿るのだろう。

 そしてもう一つの大きな試みが、男性主人公の朝ドラだということ。男性主人公の朝ドラは、窪田正孝が主演を務めた2020年度前期の『エール』以来となるのだが、幕末〜明治という時代は、男の子の成長物語を描く舞台としてぴったりである。

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 個人の立身出世が、近代国家を目指す日本の発展に繋がると無邪気に信じることができた時代を舞台にした『らんまん』は、夏目漱石の『三四郎』や司馬遼太郎の『坂の上の雲』などの小説が描いてきたような、明治を生きる男の子たちの青春物語として観ても魅力的である。

 第6週から始まった東京編以降、青春譚としての魅力はより色濃くなっていく。万太郎はお目付け役の井上竹雄(志尊淳)と共に上京し、東京大学の植物学教室に出入りするようになる。独学で植物の研究をしてきた学歴を持たない万太郎を、東大の学生たちは冷たくあしらおうとするが、万太郎が持参した植物の標本と膨大な知識を目の当たりにした教授の田邊彰久(要潤)は万太郎のことを認め、研究室の出入りを許可するようになる。

 『らんまん』では、万太郎が植物に対する知識と研究の成果、そして植物画の腕を見せることによって、相手が万太郎を認めるという物語が繰り返されるのだが、東京編では下宿先の十徳長屋、東大、後に万太郎の妻となる西村寿恵子(浜辺美波)が働く和菓子屋「白梅堂」で、このやりとりが繰り返される。

 こう書くと植物学者が知識と研究成果を武器に無双するインテリが主人公の鼻持ちならないドラマに聞こえるかもしれないが、万太郎に人間的な魅力があるため、不快な気持ちにはならない。

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