『あなたがしてくれなくても』が共感を呼ぶ理由 岩田剛典と田中みな実の“溝”が深まる

 木曜劇場『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)が見応えあるのは、無自覚に人を傷つけていることに気づかせてくれるドラマだからかもしれない。つい自分だけで精一杯になりがちになってしまう、そんな時代だから。相手を傷つけたいと思ってはいないけれど、余裕がないばかりに傷つけてしまう登場人物たちに、つい共感してしまうのだ。

 お互いのセックスレスについて悩みを打ち明け、戦友となったはずのみち(奈緒)と新名(岩田剛典)。しかし、それぞれの夫婦の危機はまったく改善することなく、虚しい日々が続いていった。そして傷ついた2人は、お互いの痛みを包み込むように心を通わせていく。

 そんなみちと新名の愛情が自分から他のところに移ったことに、みちの夫・陽一(永山瑛太)も、新名の妻・楓(田中みな実)も気づかないわけがなかった。これまで当たり前にあったものがなくなることに対しては、誰もが敏感になるものだ。

 みちが屈託のない笑顔を向けてくれること。新名が丁寧に料理やお茶を用意してくれること。そんなさりげない彼らの愛情表現がなくなった家の中は、どこか殺伐としていて、居心地が悪い。そうなれば、さらにみちと新名は2人でいる時間に心地よさを感じてしまう。

 もっと一緒にいたい。愛し、愛されていると感じたい。必要とされているという実感は、彼らの心の渇きを一気に潤した。プラトニックな関係を約束しているからこそ、その求め合う気持ちが、より純粋な恋心として燃え上がっていく。

 もちろん、陽一や楓もそのままでいいと思ってはいない。これまでないがしろにしているつもりはなかったけれど、夫婦の時間を取れていたかというと、自信をもってYESとはいえない。夫婦とはいえ、自分のペースを貫いてきた後ろめたさを持っていた2人は、どうにかその埋め合わせをしようと模索する。

 しかし、どんなにやさしい言葉をかけられても、良い時間を過ごそうと奮闘していても、みちや新名からしたら「何を今さら」と背を向けたくなるばかり。どれもこれも、2人が夫婦関係を改善しようとひとしきり努力してきたことだから。むしろ、散々無下にされた記憶がフラッシュバックするようなもの。

 傷つけるつもりはなかったとしても、「傷つけるかもしれない」という考えが及ばないことそのものが、すでに相手を傷つけているということ。自分がいっぱいいっぱいのときにこそ、どれだけ相手視点で想像力を働かせることができるか。相手を傷つけてはいないか、何か辛い思いはしていないか、自分ばかり守ろうとしていないか……と、慎重にお互いの状況を見つめ合うこと。それが「愛し合う」と呼べるものなのかもしれない。

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