『舞いあがれ!』は2000年代の空気をリアルに反映した朝ドラだった 総集編放送に寄せて

 連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『舞いあがれ!』(NHK総合)の総集編の前後編が5月5日に放送される。

 2022年10月から2023年3月にかけて放送された『舞いあがれ!』は東大阪と五島列島を舞台にした朝ドラだ。主人公の岩倉舞(福原遥)は幼少期に祖母・祥子(高畑淳子)の暮らす五島でばらもん凧を飛ばして以降、空に憧れを抱くようになる。

 大学で航空工学を専攻した舞は、人力飛行機サークル「なにわバードマン」で人力飛行機のパイロットを経験したことをきっかけに航空学校に入学し、旅客機のパイロットを目指す。

 本作は、空を飛ぶことを夢見るヒロインの物語だが、明るく前向きなタイトルに反し、常に暗い影が漂っていた。主人公の舞は内省的な優等生で、健気にがんばる努力家。しかし、何をしてもどこか自信なさげで、そのことが妙に引っかかっていた。特にそれを感じたのが人力飛行機を操縦する場面と航空学校で飛行機を操縦する場面だ。

 どちらも本作の見せ場となるシーンだが、空を飛ぶことの高揚感よりも、「どこまで飛べるのかわからない。いつか墜落するのではないか? ちゃんと着地できるのだろうか?」といった、“不安”の方が際立っているように感じた。

 楽しく空を飛んでいても、いつか墜落するのではないかという不安は、物語の舞台となる2000年代に多くの若者が感じていた気分そのものではないかと思う。

 物語は1994年から始まり、少し先の未来(2027年)で幕を閉じるのだが、圧倒的にリアルだと感じたのが、90~00年代の描写だ。

 舞の幼少期が描かれた1994年は80年代後半に盛り上がったバブル経済によってもたらされた好景気に陰りが見え始めた時期で、その影響は舞の父親・浩太(高橋克典)の経営する東大阪のねじ工場の経営危機として現れている。また劇中では描かれていないが翌1995年には阪神・淡路大震災と、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こったことで時代の空気は大きく変わる。

 その後の00年代は、不況とはいえ、現在よりもまだ日本に活力があり、社会にも余裕があったが、その余裕もいつまで続くのかわからないと不安に感じていたことを『舞いあがれ!』を観ていて思い出した。

 メインライターとして脚本を担当した桑原亮子は1980年生まれ。90年代前半から2020年代に至る平成~令和の空気感が生々しいのは、彼女が10代~20代の時に感じていたリアルな手触りが反映されているからだろう。

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