『メディア王』が映し出す、斜陽を迎えた現代アメリカの姿 2023年の重要な局面を目撃せよ

 冷笑的とも言える後続作品と『サクセッション』が決定的に異なるのは、巨大な父を持ったばかりに苦しむ兄妹の人物造形にある。天上人とも言えた彼らのドラマがシーズン4では周到に私たちの目線まで引き下ろされている。「波乱のリハーサル」と題された第2話、カラオケボックスで繰り広げられる破滅的な家族会議は、例え莫大な資産を所有していなくとも多くの人にとって近しい経験のある光景だろう。そして第3話、何の劇的誇張もなく訪れるローガンの死に私たちは兄妹ともども不意をつかれ、狼狽する。常々、演技とはリアクションだと言われてきたが、怒涛の群像演出が映し出す悲嘆と動揺は画面の端に至るまで(アラン・ラックの前で崩れるように膝を折るキーラン・カルキンを見逃してはならない)、素晴らしい演技に支えられ、ダイアローグとアンサンブルを至上とする『サクセッション』の最高潮である。突然の悲劇に際し、めいめいに父への愛憎を語る兄妹の姿は、もはや私たちにとって嘲笑し喝采を贈る“推し”ではなく、家族や兄妹を持つ私たち自身の肖像だ。

 父親の突然の死に兄妹が打ちひしがれる一方で、空いた王座を巡って権力争いは進行していく。第4話に至ると、ドラゴンも殺人もない『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』である。ローガンの金庫から遺書とも呼べないメモ書きが見つかり、古参重役メンバーは「見なかったことにしてトイレに流すか」と一通り謀議した挙げ句、兄妹に存在を知らせる。そこには次期後継者としてケンダルの名前があり、手書きでアンダーラインが引かれているのだ。いや、納得がいかないシヴからすればアンダーラインは取り消し線にも見える。不肖の息子として憎まれてすらいると思っていたケンダルは大きく動揺する。父からの承認を求めて何度も反抗し、挑戦を続け、シーズン3ではほとんど自殺未遂のような騒動も起こしたケンダルの再起は視聴者に束の間、熱量の上昇をもたらすが、早くも彼は取り消し線ともアンダーラインとも見える線に取り憑かれている。これまで薬物に依存し、躁鬱を繰り返してきたケンダルのメンタルヘルスは危うい。

 片やケンダルと共にCEOの座に着いたローマンは前シーズンでゴージョーとウェイスターを引き合わせ、露悪的な部分も含めて往時のローガンを想起させる商才を目覚めさせつつあり、兄妹で最も慎重な姿勢だ。単なるバカから有害なバカへと成り下がったグレッグ(ニコラス・ブラウン)や、後ろ盾を失くし右往左往するトムら愚かな追従者たちを侮蔑する思想も父親譲り。ローガンの急死する直前まで寵愛を受けていたローマンにとって、後継としてケンダルの名前が書かれていることは面白くない。

 一番納得がいかないのはシヴだ。ケンダルには実質上の三頭体制を約束されるも、兄2人と違って彼女には肩書すらない。シーズン3での裏切りをきっかけに夫トムとの関係も破局を迎えた彼女は、人知れず子供を身籠っている。母キャロライン(ハリエット・ウォルター)に面と向かって「産みたくなかった」と言われた彼女にとって、母親になることは論外。一時は次期後継者の座を約束されながら、女であるがゆえに排除され続けてきたシヴは父の死に際して「愛してる。だけどやっぱりあれは許せない」と言い放った。彼女は現代アメリカにおける『リア王』のコーディリアなのかも知れない。

 激動する時代において、“王国”を継承するに相応しいのは誰なのか? 最終シーズン序盤にして最高潮に達した『サクセッション』はこれまで同様、ダークな笑いを湛えながらその行く末には悲劇の予兆が満ち満ちている。2023年、『バリー』『マーベラス・ミセス・メイゼル』など2010年代後半から始まったTVシリーズが相次いで同時期にファイナルを迎えている中、今や“アメリカンシェイクスピア”とも言うべき高みに到達しつつある『サクセッション』が名実共に2010年代の物語に幕引きを行うことになるかもしれない。2023年の重要な局面を、ぜひともリアルタイムで見届けてほしい。

■配信情報
『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』
U-NEXTにて見放題で独占配信中
©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

関連記事