『6秒間の軌跡』最高の“自己満足”が詰まった最終回 すべてのエンターテイナーへ敬意を

 2022年・夏、新型コロナウイルスの影響で花火大会が中止となり、花火師の星太郎(高橋一生)と父の航(橋爪功)は暇を持て余していた。新しい年が明け、航が幽霊になってからもその状況は変わらない。だが、星太郎は変わった。

 『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)最終話のキーワードは、「上げたいから上げる」だ。

 幼い頃に自分を置いて出て行った母・理代子(原田美枝子)と“出会い直した”星太郎はその関係性が修復に向かうに連れ、なぜか花火師としてのやる気に満ち溢れていく。やらない理由を探すのが得意で、航が提案した個人向け花火にも後ろ向きだった彼が、今や注文すら受けていないのに花火のアイデア作りに勤しんでいる。

 そんな一回り以上も年が離れている男性の成長ぶりを微笑ましく見守るひかり(本田翼)。思えば、星太郎にとって初めての個人の客だった彼女のもとに友人からある連絡が入る。元彼が交通事故に遭い、命に別状はないが気持ち的に弱っているので会ってやってほしいとのことだった。

 悩むひかりに星太郎は「会ってあげた方がいいんじゃないの?」と言う。しかし、それが彼女を怒らせてしまうことになった。なにせひかりは元彼とくっついては離れるを繰り返す代わり映えのない日々を、星太郎の花火がきっかけで打破することができたのだ。もし元彼と再会したらまた振り出しに戻るかもしれないのに、会った方がいいなんて一番言ってほしくない星太郎に言われたひかりは「行かなくていいって言ってほしかった」とめっぽう不機嫌に。だけど、それに対して謝るでも押し黙るでもなく、「そんなの言われなきゃわかんないから」と言い返す星太郎にまた成長を感じる。

 星太郎は繊細で優しい性格ゆえに、自分がやりたいことや言いたいことよりも、やるべきことや言うべきことを優先してしまう人間だ。理代子が出て行ってからずっと大人になるまで、寂しいという感情すらも航に遠慮して吐き出すことができずにいた。だからこそ、自分が知らないところで両親が愛人関係になっていたという事実は星太郎をひどく傷つけたのだが、結果的に復讐しようと近づいた理代子との再会が彼を変える。倫理や正しさを飛び越えて、心が赴くままに従う理代子の不思議なパワーに当てられ、星太郎は「~せねば」という自らにはめた枷を外すことができたのだ。

 後回しにせず言いたいことは言う、やりたいことはやるというシンプルだけど難しいことを少しずつやってのけ、最後は「上げたいから上げる」と誰のためでもない、自分のための花火を打ち上げる星太郎。花火師として満足のいく花火を上げられた彼はその夜、酔っ払ってこんなこと言う。

「お客さんのために楽しんでもらう花火だけを上げるんじゃなくて、そのもっと先の世界。もしかしたら誰にも分からない、気づいてもらえないような、俺にしか分かんないようなほんのちょっとの色の僅かな差とかさ、そういうのをとことん極める。極め続けたいんだよ、死ぬまで」

 もしかしたら、星太郎が言うことは「それって、自己満足じゃん」と思われるかもしれない。だけど、その自己満足を極めた先に生まれたものが誰かの心に刺さることも多々ある。それこそ、星太郎が何カ月もかけて生み出した6秒間のきらめきにひかりが人生を変えられてしまったように。

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