“名画座”として続けていくために 新文芸坐×早稲田松竹の担当者に聞く、これからの映画館

 興行収入100億円超えのアニメーション作品が上位に並ぶなど、コロナ禍によってどん底に突き落とされた映画興行がコロナ禍以前の水準にまで戻り始めた2022年。しかし、この数年で映画館の在り方、求められ方には大きな変動が起きている。動画配信サービスが、“当たり前”になったいま、映画館で働く方々は何を思うのか。

記憶に残る映画体験を! 新文芸坐・番組編成が語るオールナイト上映の醍醐味

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“2本立て上映”の成否を分けるものは? 名画座・早稲田松竹番組担当が語るコンセプトの作り方

早稲田松竹番組担当・上田真之氏  東京・高田馬場にある名画座・早稲田松竹。ロードショーの終了した映画や、過去の名作からセレクト…

 これまでもリアルサウンド映画部のインタビュー企画に登場している、新文芸坐・編成の花俟良王氏と早稲田松竹・編成の上田真之氏に、“名画座”のこれまでと未来について語り合ってもらった。

“2本立て”だけでは成立しない時代に

――まず、2022年の1年間の振り返りからお願いできればと思います。

上田真之(以下、上田):早稲田松竹はもともと153席のところを、一部の席を空ける形で110席で丸々1年やってきました。お客さんが戻ってきていると言えば戻ってきているのかもしれないのですが……どうしたらもっと来てもらえるか、いろいろ試行錯誤していた1年ですね。基本的に2本立て上映でこれまではプログラムを組んでいたのですが、コロナ禍に入ってからは、1本立ての作品のプログラムも増えています。

花俟良王(以下、花俟):早稲田松竹さんは昔からインド映画などの3時間近くの大作であっても、2本立てを貫いていたもんね。プログラムの組み方が変わってきたなとは思っていました。

上田:以前は少なくとも、2本立てで1週間やる感じだったんですけど、シビアに上映回数のことを考えるようになりました。具体的なプログラムを挙げると、濱口(竜介)監督の特集が、1番複雑なプログラムでした。『ドライブ・マイ・カー』と『親密さ』を大体1週間流しつつ、前半は『ドライブ・マイ・カー』の脚本に参加している大江(崇允)さんの監督作品をレイトショーでやって、後半はモーニングショーで濱口監督の初期作『パッション』をやったり。

――濱口監督の映画は上映時間が長いですもんね。

上田:そうですね。「長い映画をどう上映しようか」と考えた時、1本立て、1本立て、2本立てって、どういうプログラムだよと(笑)。早稲田松竹に慣れている方は「だいぶ複雑になったな」みたいな印象があったかと思います。

ーー複雑なプログラムといえば新文芸坐さんですよね(笑)。

花俟:そうですよね(笑)。

上田:新文芸坐さんをはじめとして都内名画座のほとんどがそうなっているように、昔のように2本立てだけをやっていればいい時代は終わりつつあって、コロナ禍で劇場から足が遠のいた方々にまた来てもらうためには、1本立てだったり、1週間の中で複数の作品を観ることができることが重要になっているように思います。

花俟:モーニングショーにお客さんは入りましたか? うちは何やっても全然入らなくなってしまって……。

上田:入った作品もあったと思いますが、コロナ禍前は2本立てだともともと午前中はお客さんが多い時間だったので、それに匹敵するかというと……。かといって、1本だけクラシック作品をどうしようと思ったときにレイトに置くと、作品によってはモーニングよりも悪い結果で。

花俟:シニア層が来ないということですね。

上田:そうなんですよ。だから、朝の時間だとシニア層の方が来やすくて、観てくれることはあるんですけど。

花俟:うちもいろいろやってはいるんだけど、モーニングに来るお客さんは「平日の2本立ての人」という感じになっちゃっているから、モーニングのみだと全然来ないですね。新作はどうですか?

上田:新作はだいぶ変化しています。怖いですよね。まず、コロナで空いた期間があって、そのあとに、公開スケジュールが乱れまくって、宣伝が途切れ途切れになる中で、ヒットしそうな作品も、そこまでうまくいっていなかったり、評判が立たなかったりするので、うちで上映した時も、洋画の新作はかなりキツかった印象があります。ただ、1月に上映した『リコリス・ピザ』は、お客さんがすごく来てくれました。少しずつ、そういう作品が増えてきたけど、正直、「新作でも2本立ては怖いな」という印象はあります。

花俟:その通りですね。2022年はウォン・カーウァイの特集上映が大ヒットしたり、90年代のミニシアター作品がブームになっていましたが、若年層は新作よりも旧作の方が来てくれていましたよね。

上田:基本的に新作の2本立てで2週間のプログラムで固まっていた「名画座 ギンレイホール」さんが一時閉館となってしまったこともあり、新しい場所でオープンするまでは「新作プログラムだったらうちに来てくれるようになるのかな」と思ったのですが、今のところそんな感じもなく……。

花俟:うちもそうだね。

――劇場に来場される方の年齢層に変化は感じますか?

上田:全体的に若くなっていると思います。実数値としては若い世代が圧倒的に増えたというわけではないのですが、どうしてもシニア層の方々がコロナ禍であまり来られないようになっています。旧作でも、もともと若いお客さんたちが一定数いたんですけど、比率が変わったので、明らかに目立つようになりました。

花俟:うちもシニアの方が全然来なくなりました。早稲田さんよりもシニアで持っているようなところがあったので、そういう方々が来なくなって、早稲田さんよりもキャパが大きくて、100%でやるということもあるので、非常に厳しい部分があります。だから、今まで通りでは全然やっていけないですね。ただ、シニアの方は減ったんですけど、チケットのオンライン販売を始めてから、若い世代が少し増えて、初めて来てくれる方も増えている印象ですね。なんというか、“おしゃれな方”がすごく増えた(笑)。

上田:本当におしゃれですよね(笑)。

花俟:あと、じつはコロナ禍前から「2本立てがどこまで求められているのかな」と思っていた部分もあって。お客さんに「ごめんなさいね、1本立てが増えちゃって」と話をしても、「いや、観られればいいんだよ」「観られる選択肢が増えてありがたい」という声もいただけたし、中には「2本立てのが敷居が高い」と思っている方もいるらしくて。だから、名画座の文化や魂みたいなものを継承していくつもりではいるんですけど、やっぱり2本立てよりも、劇場で映画を楽しんでいただくという考え、2番館にこだわらないでやっていきたいなと。試験的に2月1日から4日まで『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』、『ザ・メニュー』、『ブレット・トレイン』、『未来惑星ザルドス』の4作を1本立てで並べたんだけど、そこでは「2本目割引をします」というやり方でやってみました。2本立てを求める方は、今まで通り2本立て料金で好きな組み合わせで観られるし、もちろん1本だけでも楽しめますというやり方です。ただ、やっぱり、平日の昼というのは、2本立てのお客さんだよな、というのは正直あって。だから、平日と土日みたいな感じで差別化していくべきかなと、今悩んでいるところです。

上田:そうですね。若い人とは言いましたけど、土日と平日の差でまた変わりますよね。土日はお客さんが来るけど、平日は……という差が前よりも大きくなった印象があります。平日にあくせく映画を観に行く層が、名画座には観に来なくなったのかなと。でも2本立ての需要って、見逃しもありますが、単純に「何を観たらいいか分からない」みたいな方も多いのかなと思うんですよね。さらに言うと「選ぶ気がない」というのが、もともと2本立ての抱き合わせだと思うんですけど(笑)。

――そうですよね。ある種、時間潰しとも言える形でふらりと入って2本観る感覚というか。

上田:そうそう。それに加えて僕が作品を組んでいる中で思うのは、「これを観ればいいんだ」とお客さんの映画選びのアシスタントのような立場に2本立てはなれるんですよね。だからこそ、2本立てをずっと続けたい思いはあって。

花俟:そうだよね。2本立てというのは、文化として「こんな映画があったんだ!」と発見できる良さがあって。だからこそ2本立ては新文芸坐としても絶対に残したいとは思っています。ただ、それに加えて、劇場ごとのカラーも色濃くしていかないといけないなと。今までは「2本立て」というだけで、来てくれていたお客さんが、コロナ禍によって一気に離れてしまった。10年後、20年後も続けていく上では、「この劇場だから行きたい」というお客さんも、もっと掴まないといけないと感じています。

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