『今夜すきやきだよ』が教えてくれた“共に生きる”方法 心を温めた料理と優しさ
『今夜すきやきだよ』(テレビ東京系)は、現代を生き抜くためのバイブルになり得る、非常に良質なドラマだ。「ただ自分らしく生きて、ただ今日を楽しく過ごして、美味しくご飯、食べたいだけ」の私たちの日々の葛藤と幸せを丁寧に描いている。
私たちが私たちらしく生きて、仕事をして、尚且つ大好きな誰かと一緒に暮らすということは、言葉で言うほど容易ではない。あいこ(蓮佛美沙子)とともこ(トリンドル玲奈)のようにすんなりうまくいくこともあれば、あいことゆき(鈴木仁)のように、互いに我慢を重ねていく募らせることもある。違う人間同士だから、男と女は違う生き物だから、仕方がない。いっそのこと関係を築くことそのものを放棄してしまいたくなるのだが、彼ら彼女らは模索する。それでも「共に生きる」にはどうすればいいのかと。
もしかするとこれは、「イソクマ(本作で理想として語られる共生する関係性にある生き物“イソギンチャクとカクレクマノミ”の略)」の関係にある、あいことともこが共に生きる物語であると同時に、年齢、性別、異なる価値観と人生観、セクシュアリティを持ちあわせた私たち全人類がそれぞれに「自分らしく、なおかつ共に生きていく」方法を考えるためのドラマなのかもしれない。
テレビ東京金曜深夜「ドラマ24」枠で放送中の本作は、谷口菜津子による同名コミック(新潮社)を原作に、内装デザイナーとして働くあいこと、絵本作家のともこの共同生活を描いたドラマである。特筆すべきは、脚本に本作が初の連続ドラマの脚本となる山西竜矢、演出に『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)の第3話と第6話を手掛けた太田良、映画『あみこ』の山中瑶子と、新進気鋭の作り手による作品であるということ。
あいことともこと、彼女たちの周りの人々が日常生活においてぶつかる様々な「生きづらさ」は、ジェンダーロール、婚姻制度、恋愛観の押し付けに対する違和、年齢を重ねることへの不安、フリーランスの金銭事情に至るまで、非常にリアルに、切実さを伴って描かれていて、特に彼女たちと同じ30代前半の女性は共感せずにはいられない部分が多いのではないだろうか。
さらに、本作の魅力はテレビドラマが描く小さな箱庭の中だけの「生きづらさの呈示」に限定されないことにある。例えば、第8話における冒頭の「居場所」が、あいことともこの居場所に留まらず、ありとあらゆるどこかの誰かにとっての「居場所」を示していたように。例えば、彼ら彼女らが見上げ、見上げる余裕もないほど疲れていたとしても、変わらず彼女たちを照らし続ける月が、私たちが見上げる月と同じであることを感じさせるように。彼女たちがぶつかる問題の、彼女たちが知らないその先に広がる未来まで貫き通すような、世界の広さをも感じさせるのである。