『BLUE GIANT』が掲げる“自分への勝利” 玉田が掴み取った自信と美しい景色

「音楽やりたいって気持ちにノーって言うのか?」

 主人公・宮本大が放つこの台詞に、ハッとさせられたのは私だけではないだろう。新しい物事に挑戦しようとするとき、誰だって最初は初心者だ。しかし初心者であること、下手であることは恥ではない。いつだって真の成功を掴むことができるのは、自分を最高のプレイヤーだと思って努力できる人なのだ。映画館を出たときに、学生時代にこの映画に出会いたかったと強く思った。

 石塚真一による同名漫画を原作とする映画『BLUE GIANT』。この作品は、まさに今、映画館でこそ観るべき作品といえる。3人の少年の織りなす熱い青春、そして世界的ピアニスト・上原ひろみの書き下ろし楽曲を含む大迫力のジャズは、映画館の音響システムでこそ最も輝くからだ。「二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ」というキャッチコピーにぴったりの躍動感溢れるライブシーンは、ジャズファンはもちろんのこと、観る人全てを魅了する。

2月17(金)公開|映画『BLUE GIANT』予告編

 『BLUE GIANT』が心を打つ理由は、音楽へ向ける気持ちと努力が垣間見える描写のリアルさにある。それを強く感じさせるのが、大の高校の同級生でジャズバンド「JASS(ジャス)」のドラマー・玉田俊二の成長だ。苦い挫折とひたむきに向き合う玉田の姿に、思わず自身の過去のドラム経験を思い出してしまった。楽器経験のある観客であれば、誰しも玉田がぶつかった初心者の壁の厚さを感じたことがあるのではないか。

 JASSのピアニストである沢辺雪祈の言葉を借りるなら、“ドラムは車”であり、他の楽器を乗せて会場の空気を作る大黒柱だ。一定のリズムパターンを繰り返し刻むドラムは、他の楽器より習得が簡単に見えることもあるかもしれないが、実際に人前で演奏できるレベルまで形にするには、かなり時間を要する楽器でもある。ミスが目立ちやすいこともあり、基本の8ビートのぎこちなさが抜けるまでにもそれなりに時間がかかる。

 玉田の初めてのライブを観て、ひどい演奏だと感じた方もいるだろう。ずれていくハイハットに、硬い手首の動き、止まってしまうバスドラム……。しかしゼロから始めて約3カ月、しかも緊張感漂う初ステージとなれば、非常に現実味を帯びたクオリティであると感じた。本番のステージ特有の雰囲気や、ミスをした時の心臓がキュッと縮むような感覚まで、音以外の心理的な描写も含めて、合奏の苦みの部分を凝縮したようなシーンであった。

 4歳からピアノを始めた天才ピアニストの雪祈と、圧倒的なテナーサックスの実力で雪祈を唸らせた大。そんな音楽界に現れた新星のような2人に比べれば、玉田は一般的なドラマーにも及ばない劣等生である。しかし驚くべきことに、玉田はめげずに猛練習を重ね、ジャズドラマーとして劇的な成長を見せていく。

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