DMM TVオリジナル番組『大脱出』『インシデンツ』プロデューサー対談

佐久間宣行×藤井健太郎がテレビを離れて思うこと 「ちゃんと面白いものを作れば届く」

 『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のプロデューサーとして知られる藤井健太郎が、DMM TVで新番組を立ち上げた。首まで土に埋められたクロちゃんの姿のビジュアルに付けられたタイトルは『大脱出』。シンプルが故に企画の“ヤバさ”が際立っている。

 DMM TVのオリジナルコンテンツとしては、テレビプロデューサーの佐久間宣行による『インシデンツ』が配信中。こちらも地上波では放送できないコント番組として、“過激”で想像を超える展開に驚かされた。

 こうした“笑い”を生み出す映像コンテンツのプロデューサーとして、いま最も勢いのある2人にインタビュー。それぞれクリエイターとしてどのように番組制作に取り組み、お互いのクリエイティブについて何を思ったのか。キャスティングの話から配信番組と地上波番組の現状について話を聞いた。(編集部)

藤井健太郎「(企画は)“謎解き風”なものが入ることは多い」

(左から)藤井健太郎、佐久間宣行

――最初にお2人がDMM TVで企画を依頼されたときはどのような心境でしたか? 特に佐久間さんは、ローンチタイトルを任される重圧もあったと思います。

佐久間宣行(以下、佐久間):最初にDMMさんにお話をいただいたときは、8つくらいの企画を持っていきました。どういう顧客層を狙っているのか、他の並びがどうなっているのかという面で見当違いな企画を出していないかどうか、といったことを考えていたためです。その中には、めちゃくちゃ狭いテーマでの賞レースみたいなものもあったし、芸人に関係のないリアリティショーもありました。その中に「地上波で放送できないコント番組」という企画があって、それをDMMさんに選んでいただきました。

藤井健太郎(以下、藤井):僕は「クロちゃんを首まで埋める」ってことをずっとやりたかったんですが、地上波ではなかなか難しくて。今回は、そこから肉付けしていって、全6話を通して観るものなのでストーリーがあるもので……というふうに考えました。テレビ、特にバラエティだと、何話か通して観ないと全体像がわからないものは普段あんまりないので。

『大脱出』©DMM TV

――お互いの作品を観られて、どういった感想を持ちましたか?

佐久間:第1話を観てどんなことになるんだろうと思って、その後、ルンバが出てきたところで、すごいワクワクしました。最後がどうなるのか全然分からないから、全部観たくなりますね。ワクワクと不穏な様子が散りばめられているのが藤井さんの作品だなって思いました。

藤井:佐久間さんの番組の中では『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』(テレビ東京系/以下『SICKS』)がすごく好きで、『インシデンツ』は、似て非なるものではあると思うんですが、大きく分けたら近いジャンルのものなので、楽しく観させていただきました。ストーリーが本格的で複雑で、視聴者にも集中して観ることが求められる作品なので、配信メディアに向いているとも思いました。

『インシデンツ』©DMM TV

――それぞれの番組のキャスティング、組み合わせにも面白さがありました。何か発見はありましたか?

佐久間:「きしたかのの高野を使ってるんだ!」って思いました。というのも、俺もきしたかののことが好きで、最初は『青春高校3年C組』(テレビ東京系)のレギュラーオーディションに出てもらって、その後『ゴッドタン』(テレビ東京系)にも何度も出てもらったんだけど、なかなかこちらがパチっとハマった企画を用意できなかったっていうのがあって。なので『大脱出』に出ているのを見て、「藤井くんが高野を使ってる!」と驚きました。

藤井:昔、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「若手芸人、ドッキリ仕掛けられた怒りよりも水曜日のダウンタウンに出られた喜びが勝っちゃう説」っていう企画のときに、まだ無名のきしたかの高野さんとザ・マミィ酒井さんを使いました。僕もそのときは、そこまで彼らのことを詳しく知っていたわけではなかったけど、そのときに、「今後、ドッキリとかでハネそうな人だな」とは思っていました。僕は『インシデンツ』を観て、野呂(佳代)さんの役どころがすごく好きでした。

(左から)佐久間宣行、藤井健太郎

佐久間:それを言われると本当に嬉しいね。野呂佳代を辛抱強く愛する人間としては(笑)。

藤井:『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)でも活躍しているし、野呂さんのここにきての……っていうと失礼だけど、すごくいい活躍をされていますよね。

佐久間:そうなんですよ。なんで野呂さんが『ゴッドタン』のアシスタントになったかというと、「私の落とし方発表会」っていう企画の1回目に出てもらったとき、めちゃくちゃ面白かったからなんです。でもその後コント番組にあまり出られてなかったから、今回の『インシデンツ』では「大家族のちょっといやらしいお母さん」役をやっていただいて、ばっちりでした。なのでそこを褒められるのはすごく嬉しいです。僕自身、現場で野呂さんのことをめちゃめちゃ褒めてましたし、台詞も増やしました。

(左から)藤井健太郎、佐久間宣行

藤井:これからコントはもちろん、役者としてもしっかり活躍しそうな感じがしますよね。

佐久間:あの年齢でああいう雰囲気の人ってなかなかいないから、末永く活躍しそうですよね。

――お2人の今回の番組に共通して出られているのが、みなみかわさんでしたが、「みなみかわさんを今出したい」という感覚があるのでしょうか?

佐久間:なんだろうこの複雑な気持ちは(笑)。結果的にみなみかわを買ってる、みたいなニュースになったら……(笑)。いやずっと面白い人ではあるんだけど。

藤井:面白さと、スケジュールの空き具合のバランスがいいんですよ(笑)。

佐久間:あとは権利関係が複雑じゃないとかね。“そういう時期”のタレントさんっているんですよ。この先売れるとスケジュール的に短い企画じゃないとできなくなるなとか、半年くらい先に調整してもらわないと無理だなとか。僕の場合は、さらば青春の光の2人とヒコロヒーだけは先に決めていて、さらばの森田には今回の脚本も担当しているオークラさんと全体像を説明しに行ったんですよ。そしたら森田が、「これ、みなみかわさんは入れられませんか?」って。それで確かに、みなみかわが合うなと思って決めました。

『大脱出』©DMM TV

――お互いに作品を観られて、「ここは真似できないな」と感じた要素はありますか?

佐久間:俺はぜんぜん藤井くんの真似できないですよ。これまでゴールデンの特番を除いたら1本500万円以下の番組がほとんどだったし、ダウンタウンに会ったら緊張します(笑)。同世代かその下の世代の芸人以外と仕事すると緊張しちゃうので。これは冗談とかではなく、もし自分がダウンタウンと仕事をするというときに、『水曜日のダウンタウン』の形式みたいに、ダウンタウンのふたりに面白いVTRを見せるっていう企画を選べなかったと思うんですよ。あとは好きなものの文脈が違っていて、僕は演劇とかアニメとかのカルチャーが好きでそっちに寄っていくけど、藤井さんは格闘技とかヒップホップとかが好きだし、謎解きとかミステリーの要素も多いですよね。それが好きなわけではないかもしれないけど。

藤井:謎解きやミステリーを観ることが好きかというとそうではないけど、作るときに“謎解き風”なものが入ることは多いですね。

佐久間:そういうゲーム性に近いものは俺はできないですね。

『大脱出』©DMM TV

藤井:確かに、毎週ルールを考えています(笑)。今回の『大脱出』も電話やラジオのパートにはルールがありますもんね。とはいえ、クロちゃんのパートはあんまりルールがないのですが。僕の場合だと、コント撮りをちゃんとしたことがないんですよ。芸人さん自身が考えたコントを撮る『史上空前!!笑いの祭典ザ・ドリームマッチ』(TBS系)みたいなのはありますけど、大枠だったりストーリーを作るということはあんまりないんですよね。佐久間さんは、今回の『インシデンツ』もそうだし、『ウレロ☆』シリーズ(テレビ東京系)もそうだし、大きく言えば『ゴッドタン』(テレビ東京系)のキス我慢選手権もそうだし、半分くらいはストーリーものですよね。

佐久間:確かにそうかも。

『インシデンツ』©DMM TV

藤井:僕もパーツとしてはあるかもしれないけど、全体がそういうものをやったことがないので。

佐久間:でも『水曜日のダウンタウン』の企画の「名探偵津田」は、ストーリーあるんじゃない?

藤井:たしかに、ちょっと『キス我慢』的ではあるかもしれないですね。

佐久間:あれは、津田のスケジュールを待った理由が分かります。

(左から)佐久間宣行、藤井健太郎

――お2人はどういうタイミングで企画を考えることが多いですか?

藤井:たとえば『水曜日のダウンタウン』は毎週ほぼ違うことをやっているので、僕は「考えよう」と思って考えることは少ないです。企画の中身を日々回していきつつ、「番組の中に収まらなかったから、またどこかで使おう」とかってことはもちろんあります。ただ、「この枠にはめよう」と思って何かを考える、という作業はあんまりしていないです。特にゼロイチのものは、会議をしているときよりは、ふとした瞬間に思いつく事が多いですね。

佐久間:僕は、ぜんぜん関係ない映画とかを観ているときに思いつくことが多いですね。『インシデンツ』の元になった『SICKS』の構造は、『キャビン』っていう映画を観ていたときに思いつきましたね。あとは、『魔法少女まどか☆マギカ』(以下『まどマギ』)の映画を観ていたときに、アニメのシリーズ構成のことを思い出したんです。『まどマギ』って、最初にアニメが始まるときの情報出しのイメージと、終わりの方ではぜんぜん違うものになっていくんですけど、そういう構造を、お笑いでできないかなと思ったりもしましたね。だから、全然関係ない映画やアニメなんかを観ているほうが、企画を思いつくことは多いです。

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