『舞いあがれ!』“心の動機“が重なる福原遥と赤楚衛二 本歌取りの「アイラブユー」が響く

 『舞いあがれ!』(NHK総合)第96回にて、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)がついに互いの気持ちを確かめ合った。強く抱きしめ合う2人のそばのベンチに置かれた貴司のノートには新たな短歌が記されてある。

<目を凝らす 見えない星を 見るように 一生かけて 君を知りたい>

 「星」を題材にした貴司の作風が感じられるのと同時に、「一生かけて 君を知りたい」というストレートな貴司の思いが見える情熱的な恋の詩。リュー北條(川島潤哉)が、そして貴司自身が待ち焦がれた相聞歌だ。

 芝居とは、独白のような形の一人芝居と相手と対する2人、もしくは複数人との芝居のパターンがある。『舞いあがれ!』が第1週より一貫して描き続けてきている「自分の気持ちを伝えること」というテーマ。人生の大きな選択に迷い、苦しむ舞を、祥子(高畑淳子)やめぐみ(永作博美)、久留美(山下美月)たちが鼓舞し、時に強引にでも背中を押してきた。困っている人の気持ちに寄り添い、羽ばたくまでの助走を一緒に手を取り走っていくような舞は、一方で自分の気持ちに正直になるのが不器用な人物でもある。

 そんな舞の立場的に、福原遥としては受けの演技が劇中では多いとも言える。福原の印象的な演技を思い浮かべると父の浩太(高橋克典)や航空学校での大河内(吉川晃司)の言葉に瞳を潤ませるシーンがその一つにあげられるという視聴者も多いのではないだろうか。この第20週〜第21週にかけては、舞と貴司がそれぞれ自身の気持ちと向き合うための存在として、史子と北條が登場してきている意味合いは大きくある。赤楚衛二が出演した2月17日の『あさイチ』(NHK総合)にて、福原が「秋月さんが現れたことで舞にとって貴司くんが特別な存在だったことにようやく気づいたんだと思う」とコメントしているように、史子がデラシネを訪ねてこなければ、舞は貴司へと歩み寄ることはなく、このまま友達としての関係性が続いていったことだろう。

 史子(八木莉可子)が岩倉家のチャイムを鳴らし舞に会いにきたのは、“灯火“になることが叶わなかった貴司をそばで明るくしたり、温めてあげる人は舞だと思ったからだろう。それは貴司と舞を思っての行動。今にも逃げ出してしまいそうな真っ暗闇の心境の中で、史子は舞を貴司のいる方向へと力強く後押しし、「私は……私は、私の詩を詠んで生きていきます」と宣言する。通い慣れた「うめづ」を横目に史子は涙を流しながらも、下唇を噛み締め、真っ直ぐ前を見据える。新たな道を歩き出そうとする史子の心情が、八木莉可子の演技からありありと語られていくようだ。どこまでもピュアで、芯の強い女性の史子は、脚本の桑原亮子が最初から八木がイメージとしてあった人物。『First Love 初恋』(Netflix)での演技がすでに高く評価されている八木が、朝ドラという場所でその認知度を広げ、また新たな一面を見せてくれた役柄だ。おそらくこれが『舞いあがれ!』での最後の登場となるが、次はヒロインとしてこの朝ドラに帰ってきてほしい――そんな確かな予感がするのは、『なつぞら』(NHK総合/2019年)に奥原千遥として登場した清原果耶以来だった。

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