『6秒間の軌跡』高橋一生の長年の心の傷が癒やされる 本田翼が痛みを解放するきっかけに

 人は良くも悪くも他者に影響される生き物だ。誰かの言葉や行動に深く傷つけられることもあれば、心を救われることもある。『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)第5話では、星太郎(高橋一生)の大人になった今も消えない子供の頃の傷と、その回復が描かれた。

 本格的に星太郎から花火の作り方を教わることになったひかり(本田翼)は花火玉に“星”と呼ばれる火薬を詰めながら、それが星太郎の名前の由来だということに初めて気づく。いかにも花火師の航(橋爪功)が考えそうな名前だが、どうやら9歳の時に家を出て行った母親が付けたものらしく、星太郎は自身の名前について多くを語りたがらない。

 特に話し合って決めたわけではないが、長らく星太郎と航の間に鎮座していた「母親の話題を避ける」という暗黙のルール。そこには、不器用な父と息子の互いへの思いやりが隠されていた。航が再婚しないのは、母親のことを引きずっているからだろうと思い込んでいた星太郎。しかし、当の本人はとっくの間に吹っ切れており、むしろ星太郎に気を遣って母親の話をしないようにしていた。

 星太郎は両親の離婚に際し、自ら航との暮らしを選んだが、9歳の子供が母親を恋しくないわけがない。ましてや母親は「好きな人ができた」と言って、家を出て行ったのだ。たくさん傷ついただろうし、寂しかったことだろう。それなのに、父親を気遣って母親の話を避け続けてきた星太郎の軌跡を思うだけで胸が締め付けられる。

 これからはもう母親の話を避けないようにしよう。星太郎と航がそう決めた矢先、幼なじみの勇人(小久保寿人)が個人向け花火の依頼にやってきた。岩永という小学校の恩師が今年度で定年となり、久しぶりにクラス会を催すのでそこで花火を打ち上げてほしいのだという。

 しかし、星太郎はクラス会への参加も、花火の打ち上げも頑なに拒否。勇人がせっかく持ってきてくれた大好物のおでんにも一切手を付けなかった。何か深い事情があることはひかりの目にも明らかだったが、話を聞いても星太郎は「別に」と言うばかり。今回のことも母親のこともそうだが、星太郎はよく言葉を濁す。だが、それは決して何か後ろめたいことがあるからじゃない。自分の言葉が、相手を深く傷つける可能性があることを誰よりも知っていたからだ。

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