『二十五、二十一』の煌めき、前作超えの『ユミの細胞たち』 2022年韓国ドラマ座談会

 まだまだ勢いが止まらない韓国ドラマ。OTTの拡大もあり作品数が一気に増えて話題になる作品もさまざまだった2022年。リアルサウンド映画部では、韓国ドラマライターのNana氏、にこ氏、ヨシン氏を迎え、2022年に放送・配信された韓国ドラマを振り返る座談会を開催。盛り沢山な内容を3部にわたってお届けする。第1部では、今年のベストドラマ5作を選出し、語り合ってもらった。

3人が選んだ2022年ベスト韓国ドラマ5選

・『二十五、二十一』
・『ユミの細胞たち』シーズン2
・『私たちのブルース』
・『還魂』
・『アンナ』
※順不同

『二十五、二十一』の青春を鮮やかに魅せた、色の演出

ーー2022年の上半期にNetflixで配信されて話題になったのが『二十五、二十一』でした。フェンシング選手への夢を絶たれた高校生のヒド(キム・テリ)が青年・イジン(ナム・ジュヒョク)と出会い、夢を奪われた若者たちのジレンマと成長を描いた恋愛ヒューマンドラマです。

『二十五、二十一』(tvN公式サイトより)

ヨシン:どストレートな青春ものなのでとにかくエモい。グリーンライトや蛇口を反対にひねるなどの演出も話題になりました。個人的には主人公のヒドとフェンシング国家代表のユリム(ボナ)のライバル関係に一番心を掴まれました。あんなにも真正面からぶつかるのって高校生という未完成な時期だからできることで。二人のストーリーが胸アツすぎていつも一緒に号泣していました。あと驚いたのは、30代のキム・テリさんが演じる高校生のヒドというキャラクターの完成度の高さ。今年はキム・テリさんをはじめ、唯一無二のヒロインが目立っていた印象です。

にこ:キム・テリさんはヒドと同じくらい負けず嫌いの性格だったみたいです。ユリムを演じるボナさんとフェンシングの練習をしたときも、ボナさんの家まで足首にサンドバックを付けて行ったほどだそうです。心に響いたのは、青春をキラキラ描いている点と、色の演出が特に見事だったこと。テーマカラーとして赤は主にヒドを表していて、彼女の持つフェンシングバッグ、家の花、傘など。青はイジンで、彼の着てる服、家のドア、背景。好意は緑で、ヒドの背負うリュックや、イジンがヒドに好意を表した体育館でのフェンシングシーン、緑のライトを点灯させるためにヒドを剣で突くとふたりの顔も緑に照らされるという場面も胸キュンでした。さらに、赤い灯台や緑の公衆電話を使って、離れてしまったふたりの物理的距離と、お互いを想い合い近づく心の距離の対比の仕方が胸を熱くさせました。二人の感情の近づき方や離れ方を表していたトンネルの演出もよかった。オープニングのタイトルバックが赤、青、白とドラマの内容とリンクして変化しているのも見どころのひとつで、ふたりの心がすれ違ったときにも白が使われて、ヒドとイジンが“白紙になった”という意味に見えました。

『二十五、二十一』(tvN公式サイトより)

ーーそんなに色のこだわりがあったんですね。

にこ:『二十五、二十一』には、韓国の激動の時代と言われるIMF危機とパンデミックを重ね合わせて観ている人に勇気を与える作品にしたい、青春時代に思いを馳せて現代に感謝してもらいたい、という監督の思いがあったそうです。輝かしいドラマではあるけども、イジンやヒドたちが苦しむ中で模索していく部分も魅力でした。キム・テリさんとナム・ジュヒョクさんもすごく相性がよかったです。ヒド&イジンカップルに視聴者ががっつりのめり込んでしまって、ヒドの夫は一体誰なんだとSNSで考察合戦も起こって盛り上がっていましたね。

ノ・ヒギョン作家だけの境地を見た『私たちのブルース』

ーー『二十五、二十一』の次クールにNetflixで配信された『私たちのブルース』は、豪華キャストたちの共演が配信前から話題になっていました。オムニバス形式で済州島を舞台に、事情を抱えた人々が懸命に生きていく姿を描いた作品です。

『私たちのブルース』(tvN公式サイトより)

ヨシン:『私たちのブルース』は、多様性をテーマにした作品が多い中で、人間の変わらないもの、本質的なものがとても丁寧に描かれていたドラマだったと思います。例えば親子の不和、うつ病による離婚、壊れた友情など、それぞれの生きる苦味にスポットライトが当てられていて。幸せになることよりも、幸せになろうとする過程こそが人生なんだなと思わせてくれた作品ですね。舞台が済州島の田舎ということもあって、“隣の家の下着の数まで分かる”という韓国文化の距離感の近さも感じられて、「そうそう、これが韓国ドラマだよなあ」と懐かしい気持ちにもなりました。あとはやっぱり豪華俳優たち。なかでもイ・ビョンホンさんが印象的でした。なんと言っても“カッコ悪い”んです。ただラーメンを食べる姿もカッコ悪い。今でも第一線で活躍するトップスターである意味がわかりました。

Nana:もともとノ・ヒギョン作家の大ファンなんですが、今作も情にあふれた韓国の情緒をうまく表現していて。技巧的なセリフや誇張された物語はなくても、何気ない会話の中の言葉がズドーンと心を撃ち抜いてくる。あれはノ・ヒギョン作家だけの境地だと思います。それぞれの世代の悲しみに焦点が当てられているけど、それを克服する過程の中で、視聴者に日々の些細な幸せを悟らせる巧みな脚本はさすがです。やはり個人的には今年のベストドラマは『私たちのブルース』かな、と。

ヨシン:もう唸りますよね。観終わったときの感想が「うわぁぁぁ」しか出てこない。

Nana:これを20話構成で楽しめる贅沢さと、この先観ることがあるのだろうかという授賞式レベルのキャストの豪華共演。これだけの俳優陣が集結しても、韓国では助演のパク・ジファンとチェ・ヨンジュン(イングァンとホシクのエピソード)の演技が大絶賛されていて、この作品のハイライトだと言われていたのも興味深かったですね。キム・ヘジャ先生とイ・ビョンホンが同じ画面に映ったときは、あまりの贅沢さに震えましたね。イ・ビョンホンの最後の涙の演技は次の百想ノミネートを確信しました。「あの演技に誰が勝てるんだ!」って。本当に至高すぎました。

ヨシン:濃厚すぎて2回目は観られないくらいの充実感でした。

悪女なのに感情移入してしまう『アンナ』

ーー今年はNetflix以外にもディズニープラスやPrime Videoをはじめ、いろんな配信サービスでの独占配信作品が多かった印象です。Prime Videoでは『アンナ』が配信されていました。些細な嘘をきっかけに、アンナとして誰もがうらやむ華やかな人生を歩み始めた女性のストーリーを描いた作品です。

『アンナ』(Coupang Play公式Twitterより)

Nana:正直華やかさはないんですが、今年1番ハマった作品かもしれません。シンプルにストーリーが面白いんです。身分を偽って嘘の人生を生きる主人公の結末に重点を置くのではなく、感情に寄り添っていて。嘘の人生を生きなければならなかった度重なる不運が描かれているので、悪女なのに感情移入してしまう不思議な体験をしました。上流階級と貧しい人々の人生を風刺をきかせて対比するという意味では、映画『パラサイト 半地下の家族』と同じようなメッセージ性を感じましたね。嘘を重ねて手に入れた上流階級には、上陸階級特有の寂しさや虚しさがあるのがまた奥深くて。

にこ:上昇していく美しさと心が落ちていく対比が凄かったですよね。ノートルダムの鐘やきらきら星の演出も独特で。モデルが実在しているのにも驚きました。ラストでアンナがどうなったのかを、暖炉の炎から車の炎上シーンへのカットバックで表現する演出も印象的でした。アンナが車を背にし、これまでのことを思い起こしながら「なぜこうなってしまったのか」というように泣きながら絶叫をし、暖炉の炎にあたり、ホッとしたのかため息のような安心の吐息のようなものを吐く。アンナがこれからもしたたかに強く生きていくのだと思わせてくれる終幕で、天晴れでした。

Nana:トレンディな映像と構成、破滅が迫ってくるようなクラシック音楽など、とにかく演出の完成度がすごく高くて。韓国ですごく評価が高かったのも納得です。あとなんといってもぺ・スジさんの演技が素晴らしくて。これまでの天真爛漫な役とは180度異なる変身と熱演に鳥肌が止まりませんでした。

ヨシン:ぺ・スジさんは映画『建築学概論』で「国民の初恋」と呼ばれたのが10年前で、その後も純情なヒロイン役のイメージだったのですが、『アンナ』で演じた悪の顔を見て、新境地を開いたなと。次回作が楽しみな女優さんになりました。

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