『チェンソーマン』のアニメ表現はMAPPAの真骨頂 原作を“補完”する映画的な作品だった

 他にも、第4話では公安対魔特異4課の隊員でデンジの先輩でもあるアキの何気ない日常シーンが約2分に渡って淡々と描かれた。ここは原作では描かれていなかった部分だ。ベッドから起きて目覚まし時計を止める、そしてベランダで風を浴びる、顔を洗って歯を磨くなど、漫画であればともすれば冗長になってしまう可能性のあるシーンを、アニメならではのシークエンスで表現している。原作が元となるアニメ作品にとって、このようなアニメオリジナルの描写はかなり挑戦的な試みであるが、まるで映画のワンシーンのように、一連の流れを事細かく表現したことは称賛されるべきだろう。このワンシーンがあるおかげで、キャラクターの人となりが詳細に浮かび上がっているのだ。

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 また、映像化にあたってキャラクターの細かな心情が描かれていたのもアニメならでは。第5話でデンジとマキマが接近するシーンがあるが、ここではドアップのカメラワークを多用し、臨場感を演出。デンジの虚ろな目、頬の赤らみ、マキマのなめらかな肌の質感などがより鮮明に伝わってくる。アニメ版の『チェンソーマン』ではこうしたキャラクターの心情を丁寧に描くシーンに、徹底的に時間を割いているのが象徴的だ。

 そして、もう一つアニメ版『チェンソーマン』で注目すべきポイントはド派手なバトルシーンだろう。キャラクターの心情表現の秀逸さは然ることながら、MAPPA渾身の流血表現は目を引くものがある。漫画はメディアの性質上、視覚情報が認知機能の中心だが、アニメは視覚だけではなく、聴覚も組み合わさった複合的な要素で構成されている。漫画はコマを組み合わせることによって、独自の動きを作り上げている一方で、アニメはその間にある一連のモーションを表現する。これまでの11話のなかで最たるシーンが第8話、9話におけるサムライソードとの戦闘シーンだ。3Dを多用した作画は迫力満点で、サムライソードがデンジと仲間を真っ二つに切り裂いたシーンでは、前面に映るサムライソードにピントを合わせ、後ろには斬られたことに気づかないデンジを映し続ける。漫画ではたったの1コマで描かれたショッキングなシーンを長く時間をかけて丁寧に描いていたのは『チェンソーマン』におけるアニメ表現の真骨頂だったように思う。

 毎週怒涛の展開が待ち受けているTVアニメ『チェンソーマン』。ここまで徹底的に映像表現と向き合っている作品はそう多くはない。最終回でもまたわれわれの想像を超えるアニメ表現を見せてくれそうだ。

参照

※. https://shueisha.online/entertainment/66777?page=1

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、毎週火曜24:00〜放送
Amazon Prime Videoにて、毎週火曜25:00〜最速配信
各プラットフォームにて、毎週水曜25:00〜見逃し配信
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(早川アキ)、伊瀬茉莉也(姫野)、高橋花林(東山コベニ)、八代拓(荒井ヒロカズ)、津田健次郎(岸辺)、内田真礼(天使の悪魔)、花江夏樹(サメの魔人)、内田夕夜(暴力の魔人)、後藤沙緒里(蜘蛛の悪魔)、大地葉(沢渡アカネ)、濱野大輝(サムライソード)
原作:藤本タツキ(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:中山竜
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
アクションディレクター:吉原達矢
チーフ演出:中園真登
悪魔デザイン:押山清高
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
画面設計:宮原洋平
音楽:牛尾憲輔
オープニング・テーマ:米津玄師「KICK BACK」
挿入歌:マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ:
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー:瀬下恵介
制作:MAPPA
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式Twitter:@CHAINSAWMAN_PR

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