戦争ではなく金融危機を扱う『舞いあがれ!』の新しさ 舞たちは“一陽来復”となるか
“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第12週「翼を休める島」はリーマンショックによって舞(福原遥)たちの運命が変わっていく。舞はせっかく就職が決まったものの入社が延期になり、父・浩太(高橋克典)の会社IWAKURAの経営が危うくなる。暮れのボーナスが3万円というのは切なかった。
物語を描くうえで必要になる主人公がぶち当たり乗り越える大きな障害を朝ドラではこれまで「戦争」に設定することが多かったが、『舞いあがれ!』では「リーマンショック」という金融危機にしたところが新機軸である。
戦争を物語のなかの最大の危機として描くことが多かったわけは日本人の共通の大きな喪失体験であったからだろう。だがそこに変化が起こる。2011年の東日本大震災である。大きな被害を受けたのは日本の一部とはいえ、そこからの復興は日本全体が考えるべき課題となった。いまの時代、戦争は実体験した人と体験していない人がいて温度差があるが、震災はいまを生きる日本人全員の喪失体験として、現代を舞台にした朝ドラの題材になっていく。
まず、震災から2年、東北を応援する気持ちにあふれた『あまちゃん』(2013年度前期)。それから、『おかえりモネ』(2021年度前期)。震災から10年経ってもまだ解決していないことがあり、忘れてはならない出来事として、震災体験を抱えたヒロインが誕生した。そこへさらに2020年からはじまったコロナ禍が日本を襲う。現代を舞台にした朝ドラで、マスク生活を余儀なくされる描写が挿入されるようになった。ただこれが今後、朝ドラの題材になるかは定かではない。
考えてみれば、震災は東日本大震災のほかにも阪神淡路大震災や熊本地震などもあってその体験に苦しんでいる人たちもいる。何を描いて何を描かないかは物語を作るうえで慎重になる部分である。例えば『ふたりっ子』(1996年度後期)は大阪を舞台にした現代ドラマだったが放送の前年に起こった阪神淡路大震災についてあえて触れていない。『舞いあがれ!』も1995年を通り過ぎるが東大阪の被害は小さかったというのもあって触れていない(でも玄関に防災用具的なものが置かれているように見える)。
『舞いあがれ!』が選択した障害は金融危機なのだ。現実の日本もいま経済は大きな問題となっているから気になる題材である。連日、増税、NISA制度改正をはじめとした投資のすすめなどのニュースが流れ、景気後退の不安に皆、怯えているところだ。そもそもコロナ禍によって世界は大きな経済打撃を受けた。
『舞いあがれ!』に限ったことでなく、最近の朝ドラはお金に関するエピソードが増えているように感じる。『おちょやん』(2020年度後期)でヒロインが働かない父に売られるところからはじまり、『おかえりモネ』ではヒロインの父が銀行員、『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)ではヒロインの兄が資金の持ち逃げ、『ちむどんどん』(2022年度前期)ではヒロインの兄が大きな借金を作るなど、このところお金にまつわるエピソードが続け様に描かれている。『舞いあがれ!』はヒロインの兄・悠人(横山裕)が投資家になり、リーマンショックを回避した人物として注目されるという、現代と極めて親和性が高い設定を背負っている。悠人はたまにしか出ないから余計に彼の今後の動向が気にかかる。