『狼 ラストスタントマン』主演・南翔太が語る、世界初スタントの裏側と俳優業への思い

 CG全盛の時代、スタントマンの存在意義を問うアクション映画が誕生した。スタントの事故で父を亡くした星アキラと、その原因を作ったと懺悔の人生を歩む大久保豪らの姿を描いた『狼 ラストスタントマン』。大久保豪役で俳優デビューを果たし、劇中でジャンピング・ロール・オーバー・シー・ダイブという世界初のスタントに挑んだのは、スタントマンとしてさまざまな作品のスタントをこなす髙橋昌志。彼の生き様が刻まれた本作で、主人公・星アキラとして主演を務めたのは、2007年に『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』シリーズで主演を務め、最近では『テッパチ!』(フジテレビ系)にも出演した南翔太だ。髙橋が文字通り“命がけ”で挑んだ作品で主演を務めることになった背景や世界初スタントの撮影の裏側、そして俳優業にかける思いについて、南に話を聞いた。

世界初スタントシーン撮影の裏側

ーーこの作品はもともと、本作のプロデューサーで俳優としても作品に出演しているスタントマンの髙橋昌志さんと、監督・脚本を務めた六車俊治さんからスタートした企画だそうですが、南さんはどのような経緯で主演を務めることになったんですか?

南翔太(以下、南):僕は俳優として活動している傍ら、映画の制作会社もやっていて。自分も出演しているんですけど、その制作会社で作った映画の中に階段落ちのシーンがあって、その映画で僕の吹き替えを(髙橋)昌志さんがやってくれたんです。それ以前も共通の知り合いだった監督のご紹介でお会いしたりはしていたんですけど、作品でご一緒したのはそのときが初めてで。それから昌志さんが僕のことをすごくかわいがってくださって、「今度映画やるんだけど、ぜひお願いしたいです」とお声がけいただいたのがきっかけでした。昌志さんとのご縁という感じですね。

ーー髙橋さんご自身の並々ならぬ思いが詰まった作品だと思うのですが、そういう作品で主演を任されるというのはすごく大きなことですよね。

南:本当にありがたいですね。昌志さんは普段すごく明るくて、監督にもしょっちゅうイタズラをするようなやんちゃな方なんですけど(笑)、いざスタントとなると、一気に顔が変わるんです。映画自体も、昌志さんの人生を反映させたような内容で。脚本はわかりやすくてすごく面白い話だなと思ったんですけど、一番気になったのは、「これ本当に全部スタントでやるの?」っていうところと、「僕はどこまでやるんだろう」と(笑)。

ーーアクションが盛りだくさんですもんね(笑)。

南:なので、その辺りも昌志さんとすぐにお話しさせていただきました。僕が演じた星アキラは最高峰のレーサーの役なので、モトクロスを運転するシーンはできるだけ自分でやりたいという話をしたら、昌志さんがモトクロスビレッジという練習場に連れて行ってくれて。僕はバイクの免許も持っていたので、できるかなと思って実際にやってみたんですけど、普通のバイクとは全く別物で。これはさすがに自分ではできないなということで、走り出すところと停止するところだけ自分でやることになりました。あとは一流のライダーの方に吹き替えていただいています。

ーーそれ以外のシーンではご自身でアクションをやられているところもあるんですか?

南:バイクとか機械に乗ったりするシーンは基本的にほぼ吹き替えですね。昌志さんと殴り合ったり、石黒(賢)さんとのトレーニングで坂を転がったりみたいなところは自分でやっています。

ーー聞くところによると、最初の撮影が本作最大の見どころでもありラストシーンの、髙橋昌志さんによるジャンピング・ロール・オーバー・シー・ダイブのシーンだったそうですね。

南:みんな表向きには明るく楽しくやっているんですけど、やっぱり裏では「もうすぐだな」「ついにか……」という気持ちを抱えたまま現場にいる感じがしました。昌志さん自身も、スタントの直前はやっぱり精神が揺れるみたいで。和気あいあいの中にも、デリケートな部分がすごく隠れているような感じでした。

ーー実際に現場で髙橋さんがジャンピング・ロール・オーバー・シー・ダイブに挑む様子を目の当たりにしていかがでしたか?

南:一番怖かったのは、車が海に届かずテトラポッドに落ちてしまうことだったので、車が走っていって、宙に飛んで、海の中に入って水がバッシャーンってなったときにまず一安心でした。もうその瞬間に走り出してしまってましたね。しばらくして監督がカットをかけるんですけど、昌志さんが水の中から上がってきた瞬間に、もうみんな泣いていました(笑)。その瞬間に、みんながひとつになった感覚がありました。

ーー本当に怪我や事故がなくてよかったですよね。そのシーンを撮り終えてからの撮影は気持ち的には肩の荷が下りた感じにもなったのでは?

南:もちろん決してラクだったということはないんですが、一番怖かったことが目の前で成功したので、そこからはわりととんとん拍子に進んでいった感じではありました。あとは万が一というか、昌志さんが怪我をする可能性も想定していたので、ジャンピング・ロール・オーバー・シー・ダイブの撮影からわりと間隔を空けて撮影スケジュールを組んでいたんです。1~2カ月空いていたので、その調整期間があって僕的にはだいぶありがたかったですね。見た目的に真っ白だったので、役作りのために初めて日サロに行きました(笑)。

ーーなるほど。日サロで焼かれたんですね(笑)。

南:でも、昌志さんが真っ黒なので、同じ画面にいるとどうしても僕は真っ白になっちゃうんですけど(笑)。

ーー(笑)。それ以外で何か演じる上での難しさはありましたか?

南:僕は『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』という『ウルトラマン』シリーズで主演を務めたことがあって、そのときに演じたレイという役が、今回演じたアキラに結構近いなと思ったんです。どちらも復讐を誓う人間で、悪からスタートして、いろんな人に影響を受けながら善の方に寄っていくという、『ドラゴンボール』で言うとベジータのような一匹狼のような男だったので、『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』の頃の引き出しみたいなものを開けて演じたところがありました。

ーー放送からちょうど15年を迎える『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』は南さんの代表作とも言える作品だと思いますが、『狼 ラストスタントマン』は南さんにとってどのような位置付けの作品となりましたか?

南:僕自身もそうですし、役者をやっている皆さんはどんな作品でも命がけでやっていると思うんですが、『狼 ラストスタントマン』は命のかけ方がちょっと違うというか(笑)。本当の意味で命をかけているところがあるので、そういう意味でも、この作品はまた自分にとって特別な作品になっていくと思います。

ーーまさに二度とないような経験ですよね。

南:昌志さんが飛んで、無事に上がってきたとき、本当にいままで感じたことのないような感覚だったんです。僕は子供がいないので実際にどうなのかはわからないですけど、赤ちゃんが生まれてくるときってこんな感じなのかな……みたいな。俳優って、いろんなことを想像しながらやる仕事でもあると思うんですけど、今回は想像というよりもリアル。想像できないようなことに対して、体が勝手に反応するという経験は初めてだったかもしれません。何とも言えない経験で、自分にとっては過去一番の経験だった気がします。こんな経験は後にも先にもこれっきりだと思います。

ーースタントマンの生き様を描いたこの作品を通して、普段作品などでも一緒に仕事をする機会が多いスタントマンの方に対して、改めて思うことはありましたか?

南:アクションやスタントって特殊能力だと思うので、僕はもともとアクションやスタントをやられている方をずっとリスペクトしていて。でも、表に出てくることがあまりないということもあって、どこか“縁の下の力持ち”と見られてしまうところがあると思うんです。昔からそうじゃなくなってほしいなと思っていたんですが、今回昌志さんの姿を見て、改めてその思いが強くなりました。もっとどんどん顔を出して、崇められてほしいです。それで、「自分もこんなアクションをやりたい」「こういうことができるスタントマンになりたい」と思う人が増えてくれればすごく嬉しいですね。僕からしたら、スタントマン=髙橋昌志なので、昌志さんの人間性も含めて、こんなカッコいい大人がどんどん出てきてくれると、映画界がもっと良くなっていくんじゃないかなと感じました。

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