『舞いあがれ!』なにわバードマン編と航空学校編の異なるアプローチ 恋愛描写を考える

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第9週「私らはチームや」はいよいよ舞(福原遥)が帯広校でフライト課程に進んだ。広い空、広い大地が壮観で、フライトジャケットを身に着けた大河内教官(吉川晃司)の存在感はまるで『トップガン マーヴェリック』の世界。このドラマを企画したとき制作者たちは2022年『トップガン』が大ヒットすると思っていただろうか。いずれにしても『舞いあがれ!』に追い風が吹いているようである。

 舞はクールな大河内の指導のもと、早速飛行機に乗って飛ぶ。教官が隣に乗っているとはいえ、車の運転ならまだしも、こんなにすぐに飛行機に乗って空を飛ぶものなんだなと驚くばかり。運動神経やらなんやら身体機能が優秀である者たちが選別されたのだろう。そういう意味で、一見華奢だし、言動もゆっくりしている舞ではあるが、大学時代、なにわバードマンの活動で身体を極限まで鍛えていたことが確実に役立っていると考えられる。そういう回想なり説明なりはいっさい省いて、一気にフライト課程を舞台にした新たな物語に進む思い切りの良さ。

 感心するのは、なにわバードマン編も航空学校編もざっくりいえばチームものながら、アプローチがまったく違うことだ。それぞれ、個性豊かな仲間たちがたまにぶつかることもあるけれど、力を合わせてひとつの物事の向かっていくという根本は同じにもかかわらず、みごとにムードが違う。これも桑原亮子と嶋田うれ葉、脚本家の違いであろうか。

 メインライター桑原が担当したバードマン編ではあくまで舞が中心で、彼女が部員たちの思いを背負ってひたむきに空を飛んだ。嶋田が担当する航空学校編では、たまたま同じチームになった6人が、ひとりひとりの問題を抱えながら、それを乗り越え、厳しい訓練課程を経て自立していくものになっている。舞とチームメイトの5人はあくまで等価に見える。

 それぞれの問題――舞は慎重過ぎて動作が鈍く、着陸が苦手。柏木(目黒蓮)は自信家で優秀だがそれゆえ失敗に弱い。水島(佐野弘樹)はムードメーカーだが何事も長続きしない性分。吉田(醍醐虎汰朗)は穏やかだが母の介護と経済的問題を抱えている。中澤(濱正悟)は6人のなかで最年長、6人のなかでしっかり者に見えてじつは夫婦関係がうまくいっていない。倫子(山崎紘菜)は努力の裏に社会で女性が不遇の立ち位置にあることへの不満があるようだ。

 昨今のドラマは悪役、敵役、主人公の足を引っ張る人物が存在しない。緩急をつけるためにか一瞬、主人公の障害になるような言動をすることがあっても、すぐにその人物なりの事情があることが明かされ、主人公と穏やかに手を結んでいくようになる。航空学校のチームメイトもそうだ。それに、もともとパイロット候補生の試験に受かってきただけはある理知的な人たちだからか物事の対処がスマート。とはいえ、どんなに頭が良くても、感情はあるので、厳しいテスト飛行を前にしても人と人の関わりにふと癒やしを求めてしまう。

 柏木は当初、朴念仁のようであったが、はじめて食べたお好み焼きを「もう一枚焼いてくれ」にはじまって、舞のイメトレにつきあうと自室に呼び、コントローラーを握る舞の手の上に手を乗せ、感極まって「俺はおまえのことを……」と言い出すという、猛スピードでこれまでにない感情を沸かせていく。もしかしたら、もともとそういうところがあるのかもしれない。馬の話や飛行機の話など得意なことになると饒舌になるので、「これ!」となると集中力が増してしまうタイプであり、いまは舞に興味が一気に向かっているのではないか。

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