『アトムの童』物語にうねりをもたらす山﨑賢人&松下洸平 アトムに再び暗雲が立ち込める

 「それはアトムロイドをめぐる新たな戦いの幕開けであった」。神田伯山の重々しいナレーションで始まった『アトムの童』(TBS系)第7話では、順風満帆なアトムの行く手に再び暗雲が立ち込めた。

 エンタメとシリアスゲームの両輪で業績好調な新会社「アトムの童」は、社員も増えて活況を呈していた。アトムの評判を聞きつけて来日するクリエイターや企業も続出。社長の海(岸井ゆきの)はアトム玩具の創業記念日におもちゃの製造を再開すると宣言する。そんな折、那由他(山﨑賢人)と隼人(松下洸平)は、シアトルからやってきたティム(モクタール)の顔認証技術に興味を持つ。ティムに誘われ、次のステージを目指すべきと意見が一致した2人はアトムを辞めて渡米することを決意する。

 その頃、興津(オダギリジョー)率いるSAGASは想定外の事態に見舞われていた。宮沢ファミリーオフィス(以下、MFO)がSAGASの株を大量取得し、ゲーム事業を手放すよう要求してきたのだ。MFO社長の宮沢沙織(麻生祐未)は、メタバース時代にあって「ゲームの進化が世界を変えることにつながる」と考え、SAGASが保有するアトムロイドの特許技術を市場に開放させようとしていた。沙織の真の狙いがファミリー企業の繁栄にあると見抜いた興津は買収に抵抗し、経産省事務次官の堂島(西田尚美)にすがるが、堂島から「御社との蜜月は終わった」と告げられる。そうこうするうちに、MFOによるSAGAS株の取得は進み、開示が義務付けられる5%を超える。弱りはてた興津は、窮余の一策としてアトムを訪れる。

 ゲーム業界の覇者であるSAGASが、世界規模で見れば弱小企業にすぎないこと。絶対的な強者はおらず、上には上がいるという事実は、中小企業が大資本に立ち向かい、大きな組織内の下剋上を描いてきた日曜劇場の構図を相対化するものだ。ドメスティックなテーマが取り上げられがちな同枠で、世界に目を向ける意義もある。筆頭株主の方針で塗料会社が軍需産業にシフトチェンジするくだりは、防衛費の増額が取り沙汰される昨今タイムリーな話題であり、堂島の「この国ではまじめにコツコツ働く人が馬鹿を見る」という発言や、堂島が沙織から金品を受け取ってSAGASを見限るくだりは、公正さを欠く行政への風刺になっていた。日曜劇場の常連である西田と麻生が、社会派のスパイスを加える役割を担った。

 話を戻すと、不倶戴天の敵・興津にアトム社員の厳しい目が注がれるのは当然である。さんざん痛めつけられた相手から、「日本の技術が世界中から食いつぶされ、跡形もなく消えてしまう」、「あなた方が生み出した技術がまったく意図しない場所で悪用される」と危機感を訴えられ、「君たちが必要だ」と五輪競技に採用されるeスポーツのゲーム開発を依頼されても、「やっていることはあなたも同じ」と思ってしまうし、たとえ金を積まれても協力しようと思わないのが人情だろう。誰もが追い返そうとする中で、ただ一人、那由他だけが興津の提案に乗ることを考えていた。

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