豪華キャストによる演技合戦が圧巻! 『アムステルダム』の合言葉が意味するもの

  特に、ここ最近は映画に出るたびにすっかり別人になっているベールの演技は圧巻そのもの。義眼のキャラクターを演じるのは『マネー・ショート 華麗なる大逆転』以来で、もはや左右の目の動きを少しずらす動作は、彼にとっては容易いことだ。ラッセル監督自身、キャストにオスカー像を獲らせることが多いことで知られているが、ベールは以前に彼の作品『ザ・ファイター』で受賞している。そして、おそらく本作でもアカデミー賞主演男優賞にノミネートされることが容易く想像できるのだ。そんな彼の相棒として本作で活躍するワシントンも、『ブラック・クランズマン』や『TENET テネット』などショーレースで名を馳せた作品の主演として、確実に知名度も役者としての実力も上げている。彼は本作において楽観的なバートの代わりに冷静になって物事を進める役回りに勤めている。しかし、ハロルドの方が生真面目な性格が故にシュールな笑いを生み出していた。

  そしてある意味この2人にとっての核であり、映画においても核のような存在として華やかにそこにい続けるのがロビー。彼女が演じるヴァレリーは実は裕福な家の出身だったが、そこに自分の居場所を見出せずにヨーロッパで暮らしていた。常に奔放で、活発で、エネルギーに満ち溢れていながらしっかり地に足もついている彼女は“美しい”。それは決してロビーの顔の造形だけを指すのではなく、彼女の体現するヴァレリーのステイトメント、愛を大切にする姿勢が美しいのだ。この映画には“美しい”と思わせるキャストばかりが登場する。それは決して容姿だけではなく、その声色からボディランゲージまで、役者として演じる上での動きそれぞれに宿るものであり、そこに本作の演技合戦の骨頂を感じさせられる。もちろん、ロビーやテイラー=ジョイが着る女性陣の美しいドレスやパンツスタイル、男性陣のスリーピーススーツなどの30年代ファッションにも注目していただきたい。リッチな役者の演技と、リッチな美術に装い、まさに映画館の大きなスクリーンで観るべき作品である。

 陰謀論や実話に基づく物語など、刺激的な内容の映画となっているが、本作の根幹にあるテーマはバート、ハロルド、ヴァレリーの3人が互いを想い合う友情、「愛」だ。だからこそ、誰でも共感し、彼らのフレンドシップを見守っていたくなるヒューマンドラマとして力強く仕上がっている。それと同時に、本作はあらゆる場面で「必要に駆られた選択ではなく、自分の心に従った選択すること」の重要性を教えてくれる。誰かを愛するとき、誰かを守るとき、そして自分が自由でいるために。自らの選択こそが真実であり、自由と愛に生きるために私たちは選択をし続けなければならない。

 「アムステルダム」。映画のタイトルにもなっているその言葉は、バート、ハロルド、ヴァレリーが劇中で何度も口にする、想い出の土地の名前である。しかし、彼らが発するたびにその言葉は、オランダの首都を指し示す以上に甘美な響きと意味を持つ。それは彼らが闘い、守りぬきたい自由の象徴であり、愛の象徴である。そして映画は私たちに問う。君にとっての“アムステルダム”は何か、と。

■公開情報
『アムステルダム』
10月28日(金)全国公開
出演:クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレック、ロバート・デ・ニーロ
監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル
製作:アーノン・ミルチャン、クリスチャン・ベールほか
撮影監督:エマニュエル・ルベツキ
編集:ジェイ・キャシディ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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