オダギリジョーにとって新鮮な悪役 『アトムの童』山﨑賢人の前にどう立ちはだかる?

 インディーゲームデザイナーの若者である山﨑賢人に剛腕実業家の香川照之が立ちはだかる図式は、とても日曜劇場らしくてイメージしやすいのはたしかだ。直近では『六本木クラス』がこの図式を踏襲しており、竹内涼真をはじめとする若者たちに対して、香川照之が権威的な大人の象徴として立ちはだかっていた。

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 一方のオダギリに権威的なイメージは皆無だ。『カムカムエヴリバディ』で演じた錠一郎では、ヒロインの父親でありながら定職につかず、それでいて妻と子どもたちに優しいという、父権制が色濃く残っていた昭和の父親像からかけ離れた父親像を作り上げてみせた。自ら脚本、監督を務めた『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』のオリバー役に至っては、おっさんに見える犬である。おまけにエロ話と酒が大好き。警察には属しているものの、これほど権威から遠い存在もあるまい。

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 権威的なイメージがまるでないオダギリに、若き主人公と敵対する剛腕実業家は似合うのだろうか? だが、『アトムの童』の興津晃彦という役柄の設定を読むと、いわゆる日本社会がこれまで大切にしてきた権威性とは遠く離れた存在だということがわかる。

 興津は大学時代に起業し、日本最大のIT企業へと成長させ、さらにオンラインゲーム事業に乗り出してきた男。ベンチャー精神の塊であり、銀行や大企業のような権威性とは無縁。アップルのスティーブ・ジョブズもフェイスブックのマーク・ザッカーバーグも社会から見たらアウトローのような存在だった。興津もそういう人物なのだろう。低予算でゲームを開発する主人公・那由他と共通する部分があってもおかしくない。

 だが、だからこそ怖い悪役になるとも言える。飄々としていて何を考えているかわからない。大声で威圧したり威張ったりすることなどバカのやることだと考えているが、頭の回転が異様に鋭く、次々と悪辣な手を打っていく。自由な魂をきれいさっぱり売り払い、自分の野望のためには他人を踏みつけるのもいとわない。

 ……少し筆者の妄想が入っているが、権威をふりかざして大声で威圧するだけの相手に比べても、より現代的で厄介な“敵”になる予感がする。日曜劇場『S -最後の警官-』(TBS系)でオダギリが演じた、ねっとりと喋る狂気の国際テロリスト・正木圭吾と重ねて想像してみるのも面白い。

 オダギリジョーが作品に真摯に取り組み、求められる役柄を忠実に演じるのは間違いない。ただ、どうしたって俳優が持っている雰囲気は濃厚に立ちのぼるもの。もしかしたら、まったくこちらが想像もしていないような“敵”を演じるかもしれない。日曜劇場らしいわかりやすい“敵”にはならないかもしれない。いきなり主人公と手を結んじゃうかもしれない。そんな役柄もまたオダギリジョーらしいと思う。はたして、オダギリが『アトムの童』でどのような“敵”の像を作っていくのか注目していきたい。

■放送情報
日曜劇場『アトムの童』
TBS系にて、10月16日(日)スタート 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:山﨑賢人、松下洸平、岸井ゆきの、岡部大(ハナコ)、馬場徹、栁俊太郎、六角慎司、玄理、飯沼愛、戸田菜穂、皆川猿時、塚地武雅(ドランクドラゴン)、でんでん、風間杜夫
脚本:神森万里江
演出:岡本伸吾、山室大輔、大内舞子、多胡由章
プロデュース:中井芳彦、益田千愛
製作著作:TBS
©︎TBS

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