『ちむどんどん』はドラマ批評に一石を投じる 朝ドラファンという“解釈共同体”の影響

 日本中に何万人もいる朝ドラファンは、ドラマ視聴に関して一定の見識を備えた玄人であり、作品の解釈をめぐって、SNSやネットのコメントで日常的に意見が交わされる。この現象を説明するヒントが「解釈共同体」というコンセプトだ。アメリカの文芸批評家スタンリー・フィッシュが唱えた理論で、詳細は省くが、テキストに関して一定の素養を備えた読者が、解釈戦略を共有する仮想共同体を構成する。長年の習慣によって作品を鑑賞する眼を養い、プラットフォームを通じて意見を交換する視聴者集団は、解釈共同体になぞらえることができる。

 フィッシュが想定したのは主に専門性を備えた批評家、研究者だが、ネット上の開かれた言論空間では誰もが意見を発信でき、コンセプトの適用対象は広がっているように思われる。重要なのは、こうして形成された意見が公的な評価として定着する可能性があることだ。そうなると、仕事として作品をレビューする側も、視聴者の反応を無視することはできなくなる。もとより、作品への意見表明の場が開かれていることは歓迎すべきであり、批評を通じてドラマそしてエンタメ全体の活性化につながるなら否定する理由はない。

 さらにこれはNHKならではの特殊事情だが、朝ドラファンはサービスを一方的に享受するだけでなく、受信料を払うステークホルダーであり、製作費を負担する側でもある。長年の視聴習慣が公共放送ゆえのものなら、制作側と視聴者の関係性はより緊密になる。一見して過剰に見える反応の根底に、サービスの支え手としての意識が潜んでいるとしたら……。日本を代表する“サブスク”また公共放送ならではのコンテンツとして、朝ドラと視聴者に明るい未来が訪れることを望むばかりだ。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか

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