『競争の番人』“公取ドラマ”が見せたひとつの可能性 人質になった坂口健太郎の奮闘
小勝負(坂口健太郎)の15年来の因縁の相手である藤堂(小日向文世)の不正を暴くことで、“ダイロク”というチームの強さを証明した前回の『競争の番人』(フジテレビ系)。実質的にはそこで連続ドラマとしてのひとつの節目を迎えたわけだが、近年の「月9」はその後にいわゆる“特別編”エピソードを用意することが定番となっている。これは本筋をしっかりと終わらせつつ、いずれ続編を作るための布石にしようというねらいがあるのだろう。9月19日に放送された最終話は、まさにエピローグでありつつ、“公取ドラマ”のひとつの可能性を見せてくれるものとなった。
前回までの一件によって、愛媛にある四国支部へと左遷されることになった小勝負。父の墓前に藤堂の不正を暴いたことを報告し、懐かしの味である「みかんパン」を求めて地元のスーパーに立ち寄るのだが、その店の価格設定の安さに違和感を覚える。店内で不審な動きをしていたために店長の松尾(迫田孝也)から万引きと疑われて、バックヤードに連れて行かれてしまう小勝負。ところがその矢先、店内から悲鳴と銃声が。スーパーの安さによって店を閉店に追い込まれた地元のケーキ屋の店主・田嶋(加藤虎ノ介)が猟銃を持って従業員を人質に取ったのだ。そして小勝負も人質になってしまい……。
これまでの本筋では、価格カルテルや優越的地位の濫用、私的独占に再販売価格維持、そしてクライマックスの官製談合と、ほとんど馴染みのない「公正取引委員会」の職務について、最低限のリアリティと適切なドラマ性を携えながら非常にわかりやすいかたちで描写してきた。今回のエピソードにおいても、「不当廉売」(=正当な理由なく、原価を割るなどの著しい安価で商品を提供して販売を続けることで、他の事業者の事業を困難にさせること)をテーマに掲げるのだが、その語り口、ドラマとしての性質はまるで異なる。
一般的な生活に直結するスーパーという日常的な空間を舞台に、いささかオーソドックスな立て篭もり劇を描き出し、そこに小勝負というまさに公取の申し子と言わんばかりの異質なキャラクターを放り込む。必然的に、これまでの“公取とはどんな仕事をするところなのか?”というお仕事ドラマの側面とは異なる、シチュエーション性の強い物語へと様変わりするのである。しかし考えてみれば、刑事ドラマも弁護士ドラマも、本来の平穏な日常とは程遠いところにある職業性がいかに日常と絡み合っていくのか繰り返し模索してきたからこそ限りなく身近な存在へとなっていったのであり、これこそが公取を描くというこのドラマのたどり着くべきところだったのかもしれない。
絶体絶命のシチュエーションに陥った小勝負が、公取の職務を使って困難を乗り切るという、振り切ったエンターテインメント性。しかも完全に小勝負を立たせ、楓(杏)をはじめとしたダイロクメンバーは電話越しにやりとりを交わすのみに徹し、視聴者同様にテレビ越しに小勝負の奮闘を見守る。それはどこか、このドラマを契機に公取という存在が、一般的な興味関心を持たれるものになるという期待感を感じさせる描写とも取れる。この最終話は、公取ドラマの習作たる『競争の番人』の貴重な第一歩というわけだ。
■配信情報
『競争の番人』
Tver・FODにて、最新放送回配信中
出演:坂口健太郎、杏、小池栄子、大倉孝二、加藤清史郎、寺島しのぶほか
原作:新川帆立『競争の番人』(講談社)
脚本:丑尾健太郎、神田優、穴吹一朗、蓼内健太
演出:相沢秀幸、森脇智延
プロデュース:野田悠介
制作・著作:フジテレビ
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