『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』はなぜアメリカで人気を勝ち得たのか

 「ゲーム原作映画を成功させるのは難しい」と長年言われてきたが、アメリカの映画界が試行錯誤を繰り返しているなかで、『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)は、これまでゲームを原作に持つ映画としてアメリカ国内で最高の興行収入を得た『名探偵ピカチュウ』(2019年)を超え、頂点に立つほどの大成功を収めた。さらにこの度公開された、続編となる『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は、前作の記録をも超えることとなった。

 しかし、日本発のゲームを題材にした映画作品でありながら、日本での興行は、現時点でそれほどの結果を得られていないのも事実。なぜ本シリーズは、アメリカ国内でこれほどの人気を勝ち得たのだろうか。ここでは、本作『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』の内容や、シリーズの特性を考えながら、その理由について考えてみたい。

 1980年代から90年代の間、日本のビデオゲーム業界は間違いなく世界一といえる存在感を発揮していた。もちろん、いまでも日本から魅力的なタイトルは発売されているが、アメリカで子ども時代にビデオゲームを遊んでいたオールドユーザーは、懐かしい青春時代とともに日本のゲームを思い出す場合が少なくない。

 その時代にアメリカで任天堂「ファミリーコンピュータ」の北米版「NES」と人気を二分したのが、SEGA「メガドライブ」北米版の「ジェネシス」であり、その原動力となったタイトルが、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』初期シリーズだったのだ。このシリーズは、北米でのヒットを目指し、アメリカでどんなキャラクターが支持されるのかをリサーチし、現地で先行発売されるなど、もともとアメリカのユーザーに焦点を合わせたものだった。そう考えれば、そもそも原作ゲームの時点で、アメリカと日本にある程度の温度差があるというのも頷ける。

 本作『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』では、おなじみのDr.エッグマン(ジム・キャリー)はもちろん、そんな原作ゲームの『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』2作目で現れる新キャラクター“テイルス”、さらに3作目に登場する“ナックルズ・ザ・エキドゥナ”が加わる。『007』シリーズのボンド役候補でもある、ダンディーなイドリス・エルバがナックルズの声優を務めているのは意外だが、ゲームファンであるというエルバは、むしろ、この役が演じられることに驚きを覚えるほどだったのだという。

 物語の本筋は、ゲームでも大きな意味を持つ、強大な力を持った「カオスエメラルド」の争奪戦だ。アクションシーンでは、雪山や遺跡など、過去のゲームシリーズのステージを舞台にしていたり、テイルスの操縦する複葉機や、Dr.エッグマンの「最終兵器」が登場する。このように、要所要所で原作ゲームのファンを楽しませる要素が用意されている。

 もちろん、このような懐かしい部分でゲームファンの郷愁を誘ったことが、ある年代以上の観客の評価に影響したことは確かだろう。この時代のビデオゲームには、“いかにもゲームらしいゲーム”という印象があり、特徴が際立っているのだ。最新のゲームはリアリティを増し、実写映画の演出と融合した内容が主流となっている。その意味において、近年のゲーム原作の実写映画『アサシン クリード』(2016年)や、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018年)、『アンチャーテッド』(2022年)などは、「ゲーム」という要素を意識できるところは比較的多くない。

 その上で、ゲームにはなかったオリジナル要素を用意したことにも、本シリーズの大きな魅力がある。代表的なのは、ジム・キャリーの存在だろう。言わずと知れたコメディスターである彼だが、その芸風があまりにハイテンションで存在感が強いため、主演以外ではその個性がなかなか活かせず、近年は持て余される部分があったといえよう。だが本シリーズでは、コミック的な悪役を『ケーブルガイ』(1996年)のように、とにかく“ウザさ”全開の狂気で演じ、せわしなく軽口を叩いているソニック以上のインパクトを発揮しているのである。実質的に本シリーズは、ジム・キャリー主演作となっていて、彼のカリスマ的な芸を有効利用したものとなっているのだ。

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