『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』出演者&製作陣にインタビュー 『GoT』からの“解放”も?
ライアン・コンダル&ミゲル・サポチニク
――原作小説とはどの程度近いのでしょうか?
ライアン・コンダル(以下、コンダル):あれは小説ではなく、ジョージが伝統的な散文構造を用いずに書いた、フェイクの歴史書です(笑)。だから、映像化は大きな挑戦でした。ジョージのような、歴史を組み立てようとしている人は、その時代の直接あるいは間接的な伝承に基づいて自分なりの歴史書を書くことができるのです。ドラマでは、小説の文体や構造は使用していません。不誠実なナラティブを使うまでもなく、物語が十分に入り組んでいるからです。しかし、戦争に行った、誰々が結婚した、というような歴史上のイベントは原作に基づいています。これらの事実は、ジョージが原作で書いているような、登場人物たちが内心どんなことを考えているのかを考察するのに役立つからです。事実に基づく文書として書かれたもの、あるいはフィクションとして書かれた部分を映像化する際に必要な発明をする余地が残されています。このドラマは原作に忠実であると同時に、構造上の理由で多くの創作を余儀なくされる作品です。
――以前のインタビュー(※1)でも、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』では家父長制が崩壊し、女性による支配が始まると述べられていました。このパイロットエピソードで、出産をテーマの一つに掲げた理由を教えてください。
コンダル:家父長制ですね……。興味深いことに、『氷と炎の歌』(原作小説)では常に男性が相続人であると仮定されていますが、ある時点で反乱軍が権力を握ることになります。『ゲーム・オブ・スローンズ』は、正義と良識をめぐり複数の家族が闘争を続けるという内容でした。殺人や裏切りも全て『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』に存在しますが、違うのは一つの家族の崩壊を描いていること。その家族がたまたまウェスタロスの歴史上最も強力な家系だったということです。
ミゲル・サポチニク(以下、サポチニク):中世の時代では、男たちが戦場で戦うのと同じくらい、女性にとっての出産が重要で危険なことだったと想定したのです。現代では考えにくいかもしれませんが、出産は女性にとっての戦場で、50/50の生存率しかない、という導入にしました。そこにいくつかの“誕生”があり、それぞれに異なるテーマを含ませています。
――『ゲーム・オブ・スローンズ』が終了して少し経ちますが、その間も世界は変化し続けています。今、この物語を再び語るにあたり、どんな変化がありましたか?
サポチニク:私たちはすべてを慎重に逆算し、たとえば「ロー対ウェイド裁判(1973年に人工妊娠中絶を規制する法律を違憲無効とした米最高裁判決)」のようなことが後世に起きるといった伏線を配置していきたいと考えました。もしも『ゲーム・オブ・スローンズ』のような事態が起きるとしたら、何が引き金となったのか、というようなことです。私たちも、みなさんと同じように、世界中で起きていることに影響され、それを吸収し、それが作品に反映されます。『ゲーム・オブ・スローンズ』は意識的に、ウェスタロスの世界やジョージが書いた小説にある普遍的なテーマを用いて、私たちが暮らす今の世界と似ているようで少し異なる世界を描く構造にしました。もしかすると、物語が描いていることを受けて、我々を悩ませている物事を解決する方向に導くことができるかもしれない、と考えました。ライアンと私たち脚本家も演出家たちも、意識的に全て解説できるわけではないので、結果的にこうなった、というものもあると思います。でも、これが今の私たちの目の前にある物語なのだということがわかってきました。
ーーこのシリーズは、続編ではなく前日譚です。その利点とはなんだと思いますか?
コンダル:過去を遡るのはとても興味深いものです。ターガリエン家はヴァリリア大帝国からやってきてウェスタロスを征服するプレデターのような種族で、およそ300年間統治したのちに滅びるというのがオリジナルシリーズで描いていたことです。デナーリスの物語を通じて内部に潜入していきますが、彼女が知っていることも、みなさんがオリジナルシリーズで見てきたことも、大部分がターガリアン王朝の神話であり、伝説です。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』では、270年前の彼らが権力と富と影響力の絶頂期にある現実を、過去に遡ってお見せすることになります。『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作を通じて、デナーリスが失ったもの、取り戻そうとしているものをドラマチックに描くことができるので、とても興味深い物語になると考えました。だから、270年の時を経ても、この物語の前日譚とその後継作である『ゲーム・オブ・スローンズ』の間には、多くの物語の共鳴が存在するのです。
――『ゲーム・オブ・スローンズ』は女性差別的だという批判も一部にはありました。新しいシリーズを作るにあたり、意識的に変えた部分はありますか?
サポチニク:もちろんです。過去から学ばないといけません。現実世界であれ想像上の世界であれ、私たちが今生きている世界は、『ゲーム・オブ・スローンズ』が最初に作られた10年前の世界とは違います。『ゲーム・オブ・スローンズ』の最初の3シーズンは、セックスとバイオレンスがテーマでした。セックスは、ドラマを観てもらうための装置でした。残念なことですが、それが事実です。私たちは本当に幸運なことに、もうドラマをプロモーションするためにセックスを描く必要はありません。セックスが存在しなくてもいいという意味ではなくて、『ゲーム・オブ・スローンズ』に課せられていたある種の責任から解放されたのです。そして、10年前とは異なる現在に生きている私たちは、そのことに意識的にならなければなりません。だからと言って、セックスを一切描かないとは言いません。少しは……あるいはかなりあるかもしれません。私たちが作るドラマは、ユートピアのような世界を描いているわけではありませんから。でも、間違いを自覚し理解することが大切だと思います。そうすることで、よりよい作品が生まれるのです。
コンダル:でも、今作はまだ『ゲーム・オブ・スローンズ』サーガの範疇にあって、すっかり角を取られてしまったわけではない、ということも重要だと思います。今作で描いている後進的な世界は、いにしえの中世の価値観を現代のDNAを持ったレンズで覗き見たものです。選挙で選ばれた政府ではなく、君主制の発想だけでも後進的で、権力者が貴族的な振る舞いをし始めます。人々を階級と地位の中に押し込め、統治する社会構造です。そういったものが全て存在する世界なのです。そしてその時代において、女性差別や家父長制への傾倒は、日常に起きていたことでしょう。この時代を生きる女性たちに対し、大切なのは支配から逃げることではなく、彼女たちの物語がどのように語られるかを考えてほしいと思うのです。そして、このドラマから得られるメッセージが意味することを感じ取っていただきたいです。
参照
※1. https://www.empireonline.com/tv/news/house-of-the-dragon-is-about-the-patriarchys-perception-of-women-exclusive-image/
■配信情報
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
U-NEXTにて配信中
出演:パディ・コンシダイン、マット・スミス、オリヴィア・クック、エマ・ダーシー、スティーヴ・トゥーサント、イヴ・ベスト、ファビアン・フランケル、ソノヤ・ミズノ、リス・エヴァンス、ミリー・オールコック、ベサニー・アントニア、フィービー・キャンベル、エミリー・キャリー、ハリー・コレット、ライアン・コア、トム・グリン=カーニー、ジェファーソン・ホール、デヴィッド・ホロヴィッチ、ウィル・ジョンソン、ジョン・マクミラン、グレアム・マクタヴィッシュ、ユアン・ミッチェル、テオ・ネイト、マシュー・ニーダム、ビル・パターソン、フィア・サバン、ギャビン・スポークス、サバンナ・ステイン
日本語吹替版キャスト:早見沙織(レイニラ・ターガリエン役)、津田健次郎(デイモン・ターガリエン役)、堀内賢雄(ヴィセーリス・ターガリエン役)、大塚芳忠(オットー・ハイタワー役)、坂本真綾(アリセント・ハイタワー役)、大塚明夫(コアリーズ・ヴェラリオン役)、田中敦子(レイニス・ヴェラリオン役)、諏訪部順一(クリストン・コール役)
共同企画・製作総指揮:ジョージ・R・R・マーティン
共同企画・共同ショーランナー・製作総指揮・脚本:ライアン・コンダル
共同ショーランナー・製作総指揮・監督:ミゲル・サポチニク
製作総指揮・脚本:サラ・ヘス
製作総指揮:ジョスリン・ディアス、ヴィンス・ジェラルディス、ロン・シュミット
監督:クレア・キルナー、ジータ・V・パテル
監督・共同製作総指揮:グレッグ・ヤイタネス
原作:ジョージ・R・R・マーティン『炎と血』
原題:House of the Dragon
翻訳:川又勝利、佐々井朝衣
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公式サイト:https://www.video.unext.jp/title_k/house_of_the_dragon