『ちむどんどん』の根幹にある“相互扶助”への願い 賢秀は朝ドラ史上最も騙されたキャラに
集まって助け合わないと生きていけない人たちがいる。突き詰めれば、社会が助けてくれないからである。仕事がない、居場所がない、十分な社会保障がない。そうなると自分たちでなんとかするしかない。それがいい方向に向かえば、県人会のようになるし、優子(仲間由紀恵)が畑で野菜を作り、それを孫の晴海(佐藤風和)と食べて「特別なものじゃなくていい。うちらの目の前にはこんなにおいしいものであふれている」といまの生活に満足を語るようにもなる。悪い方向に向かえば、我那覇やネズミ講のようになる。
後者に関して、ドラマではマイルドに描いているけれど、抜け出せなくて、堕ちていく人たちだっているのだ。今年公開された映画『冬薔薇』は家族とも友達ともうまく関わりを結べない者がさすらっていくさまを徹底的に淡々と描いている。NHKのドラマだと、振り込め詐欺を追う刑事たちを描いた『サギデカ』では受け子になった青年の末路がじつに悲惨だった。お金に振り回される人間の地獄をエンターテインメント化して成功したのはドラマから映画化もされた『闇金ウシジマくん』がある。
朝の支度をしながら観る主婦層を対象にしていた昭和や平成前半と違って、配信もあるいま、朝ドラの視聴層は幅広くなり、朝の時間帯に観るだけではなく昼でもう夜でも観ることができるから、内容も朝、爽やかな気分になるものでなくてもいいようになって、ドラマで扱う題材も多様になってきているようにも感じる。
もっとも朝ドラでは主人公の身内が犯罪に巻き込まれるエピソードが意外とあるのだが、『ちむどんどん』ほどレギュラーの賢秀がお金を騙し取られることからいつまでも抜け出せないことも珍しいだろう。主人公・暢子の成長と活躍よりも賢秀の問題のほうにボリュームを割いて見えるのは、やはり新たな視聴者の出現を鑑みているようにも感じる。賢秀のような視聴者が万が一いたらと慮ってか、房子が自分の店から独立した者に等しく「資金援助もしない。借金の保証人にもならない」と毅然と言うことが救いだった。比嘉家があまりにお金にこだわりがないものだから、常識的な視聴者は気になってしょうがないのである。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK