『ジェイコブと海の怪物』と『ヒックとドラゴン』の相似 戦争と歴史をめぐる物語

 夏だ! 海だ! 冒険だ! 7月8日からNetflixで配信されているアニメ映画『ジェイコブと海の怪物』は、まごうことなき“夏休み映画”だ。『ベイマックス』のクリス・ウィリアムズ監督がディズニーを離れて作り上げた海洋冒険ファンタジーは、世界中の子どもたちにこぞってリピートされているようで、総再生時間は4週間ですでに1億7000万時間を突破した。(※)

 『ジェイコブと海の怪物』を観た子どもたちは(もちろん大人たちも)ディスプレイを通して、胸躍らせながらはるかに広がる大海原に乗り出したことだろう。そこで繰り広げられたのは、主人公たちと巨大な海の怪物との死闘……と見せかけて、物語は思わぬ方向に視聴者を運んでいく。この映画で語られていることは何か、物語の結末を含めて考えてみたい。

※以下、『ジェイコブと海の怪物』に関するネタバレあり

 舞台は中世を思わせる海沿いの国。人々は海から現れる巨大な怪物の侵略におびえながら生きてきた。そんな中、登場したのが、船で海を越えて怪物たちを狩る「ハンター」だ。旧式の銃と大砲、そして銛を使って怪物を倒すハンターたちは人々から賞賛と喝采を浴び、英雄として崇拝されてきた。王室から支援を受けているハンターは、アウトローな海賊ではなく公的な存在でもある。彼らの合言葉は「ハンターは立派な人生を生き、立派な死を迎える」。ハンターたちは己の正義を信じ、怪物と戦って遂げる死は彼らにとって崇高なものだ。

 歴史ある船・イネビタブル号を率いているのは隻眼のクロウ船長。かつて巨大な海の怪物・レッドブラスターに片眼を奪われており、復讐の鬼と化している。クロウがもっとも信頼を置く男・ジェイコブはハンターの中でもとびきり腕の立つ若者だ。勇猛果敢な戦士であり、仲間たちを奮い立たせるモチベーターでもある。ジェイコブは幼い頃、クロウに拾われて命を助けられた過去があった。クロウにとってジェイコブは「良き息子」であり「船長の後継者」だ。もう一人の主人公、孤児院から脱走した少女・メイジーはハンターに強く憧れ、いつか自分もハンターになると心に決めている。彼女の死んだ両親もハンターだった。メイジーはイネビタブル号にこっそり乗り込み、ジェイコブらと怪物退治の航海に出る。

『ヒックとドラゴン』との相似

 激しい戦いの後、メイジーはお互いの命を救ったレッドブラスターと交流を持つようになる。凶暴だと信じられていた怪物が、実は心を通わせることができる生き物だったと気付く筋立ては『ヒックとドラゴン』(2010年)とよく似ている。実際、欧米でも日本でも本作と『ヒックとドラゴン』を関連付けて語られることが非常に多い。クリス・ウィリアムズ監督は言及していないが、下敷きにしているのは間違いないだろう。

 『ヒックとドラゴン』は、ドラゴンと戦う種族であるバイキングの風変わりな少年ヒックが、最も危険とされるドラゴン、ナイト・フューリーと交流を持つ物語。やがてヒックはバイキングの意識を変え、人々とドラゴンは共存するようになる。クライマックスにはドラゴンたちを支配していた巨大ドラゴン、レッド・デスをヒックとナイト・フューリーたちが協力して倒すという見せ場が用意されていた。戦いの後、人々とペット(乗り物)になったドラゴンたちの姿は、どこか西欧人がアジアやアフリカの国々を支配した植民地主義を思い起こさせる結末だった。

 レッドブラスターの優しさに気づいたメイジーは、これまでのハンターの振る舞いに疑問を抱くようになり、船からはぐれて行動をともにするジェイコブと対立する。だが、ジェイコブもメイジーを守るために行動するうち(彼は「大人は子どもを守るもの」という常識を持つ男だ)、徐々に人間と怪物の共存の可能性を信じるようになっていく。メイビーはジェイコブにこう語りかける。

「戦いがどう始まったかはわからない。けど、大事なのはどうやって終わるかじゃない?」

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