『鎌倉殿の13人』佐藤二朗だから完璧に演じられた“悪役”比企能員 義時の覚醒トリガーに

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時(小栗旬)は、鎌倉殿に忠誠を尽くしながらも、できることなら米の取れ高を数えながら、のんびり伊豆で暮らしたいという密かな願望を捨ててはいなかった。おおらかな表情とは裏腹に、権力欲の強めな父・時政(坂東彌十郎)や、胸に大きな野望を秘めていた亡き兄の宗時(片岡愛之助)に何かと振り回されがちだった義時。彼自身は、御家人たちの権力闘争で勝ちにいくどころか、仲間うちのいざこざに巻き込まれるのが苦手なタイプとして描かれてきた。

 ところが、である。ここにきて義時を覚醒させ、「鎌倉殿のもとで、悪い根を断ち切る、この私が」と宣戦布告させた人物がいる。放送後、SNSでも邪悪な演技が上手すぎると絶賛された佐藤二朗が演じる比企能員である。

 第30回「全成の確率」で、比企能員は「仮の話として聞け」と前置きしつつ、「一幡様が跡を継げば、わしは鎌倉殿の外祖父」「朝廷ともじかに渡り合える」「京へ上って向こうで暮らし、武士の頂に立つ。そんなことを夢見たわしを愚かと思われるかな」と義時に対して権力欲をあらわにした。

 意のままにならない頼家(金子大地)に対して、直接不満や批判的なことは言わなかった。鎌倉殿が自分に対して不信感を抱いているのは、はっきりと理解していたからだ。これまで、どちらかというと妻の道(堀内敬子)のほうが野心的であった。北条家をライバル視し、頼朝(大泉洋)に取り入るようにと、能員は道に背中をずいぶん押されてきた。それが、ここにきて能員自身がダークな面を見せ始めたのである。

 一方、北条側では鎌倉殿の跡継ぎをめぐり、時政とりく(宮沢りえ)が思いを巡らす。全成(新納慎也)と実衣(宮澤エマ)が後見となっている千幡が継ぐことを望み、北条のためにと全成に頼家への呪詛をかけることを依頼。この呪詛の効果がないまま、すべての木人形を御所の床下から回収できればよかったのだが、一体だけ回収し忘れた木人形が見つかってしまった。

 頼朝の兄弟でただ一人生き残っていた全成だったが、頼家に呪詛をかけたことで流罪になり、流罪先で能員にそそのかされて木人形を作ってしまう。考えてみれば、源範頼(迫田孝也)が亡くなったのも、能員の強引でずる賢い振る舞いが原因を作ったようなものだった。

 頼朝が頼家のお披露目として行った巻狩りでの曽我兄弟(田邊和也・田中俊介)の仇討ちに端を発する頼朝暗殺未遂事件。そのとき、能員は、頼朝が死んだという情報をそのまま受け取り、娘婿である範頼が鎌倉殿になってくれたら比企は安泰だと、安易に考えて事を進めようとした。結果、無事に帰ってきた頼朝が激怒。範頼は釈明をするために、鎌倉殿を継ぐことをけしかけた能員に会いに行くが、仮病を使われてしまう。こんな大事な場面で仮病を使う能員も能員だが、真面目な範頼はうまく立ち回ることもできず伊豆に流され、最終的に善児(梶原善)に殺された。

 欲のない素朴な人たちが政治的な駆け引きに巻き込まれて悲劇的な死を遂げる。全成と実衣のほのぼのしたやりとりに癒されることが多かっただけに、全成の最期は衝撃的で悲しみが色濃く映し出された。悲しみ、やるせなさがこんなにも強く感じられるのは、やはり“敵役”である比企能員の強烈な個性、狡猾さが効いているのである。

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