宇野維正の興行ランキング一刀両断!

『ソー:ラブ&サンダー』初登場1位でも払拭できないマーベル作品の疲弊

 先週末の動員ランキングは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作『ソー:ラブ&サンダー』が、土日2日間で動員23万7000人、興収3億8800万円をあげて初登場1位となった。オープニング3日間の動員は35万8912人、興収は5億8601万1950円。MCUの映画作品としては前作にあたる『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の初週の興収比は土日2日間で約113%という結果に。もっとも、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はゴールデンウィーク中の水曜日公開というイレギュラーな公開日だったので、MCU映画の現状の集客力は概ね横ばいといったところだろうか。ちなみに、オープニング5日間で興収12億1338万5750円をあげた『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は極端な初動型興行で、最終興収は約21.6億円にとどまっている(先週の本コラムでも触れたように、配信までの間隔が決まっているディズニー作品はもはや構造的にロングヒットにはならない)。

 1月に『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(日本以外のほとんどの国では2021年12月公開)、5月に『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』、7月に『ソー:ラブ&サンダー』とここまでハイペースで公開されてきたMCU映画も、今年は残すところ11月公開の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー(原題)』の1作品のみ。ディズニープラスで配信されているMCUテレビシリーズも7月13日に『ミズ・マーベル』の最終話が配信され、年内はアニメーションのショートシリーズ『アイ・アム・グルート』やハロウィーン・スペシャルやクリスマス・スペシャルを除いて、通常のシリーズ作品は『シー・ハルク:ザ・アトーニー』の1作品のみ。ここまで、新作の公開や配信に必死で追いついてきた観客&視聴者も、ようやく一息つくことができる。

 数年前にディズニープラスでのMCUテレビシリーズの量産計画が発表された時から現在の供給過多の状況は予想できたことだが、いざその状況に慣れてみると、「なるほど、こういうことか」と納得せずにはいられない。一つは、MCUフェーズ3に顕著だった、作品単体のクオリティコントロールが緩んできていること。もう一つは、一つめとも密接に関わっていることだが、サノスの存在に象徴される各作品を横断するストーリーラインが希薄で、ポストクレジットのサプライズもインフレを起こしていることだ。個人的にも、もう「ケヴィン・ファイギ神話」のようなものを抱くことはなくなった。一人の人間がユニバース全体を統括するには、あまりにも手を広げすぎてしまったのだろう。

 この状況は、熱心なマーベルファンにとっては残念なことかもしれないが、映画ファンにとっては悪いことではないだろう。先週末の段階で興収84億376万4820円を記録している『トップガン マーヴェリック』は今週末にも興収90億円超えを射程に収め、『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』を抜いて2022年の興収暫定1位も時間の問題となっている。同作の世界的な大ヒットはハリウッドの各メジャースタジオにとっても大いに刺激となったに違いない。マーベル作品の圧倒的な強さを前に、戦意喪失気味だった昨年までのハリウッドのムードは変わりつつある。

■公開情報
『ソー:ラブ&サンダー』
全国公開中
監督:タイカ・ワイティティ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、テッサ・トンプソン、クリスチャン・ベール、タイカ・ワイティティ、ラッセル・クロウ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Thor: Love and Thunder
(c)Marvel Studios 2022

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