『神は見返りを求める』は誰もが表現者の現代人必見 スマホという“凶器”を理解するために

スマホは剣より強い凶器

 YouTubeは、何者でもない人間に夢を見る権利を与えてくれた。しかし、夢見るだけでは熾烈な競争に勝てない。

 才能も個性も乏しい人間が注目されるためには、「誰にでも可能だが、多くの人がやらないこと」をやるしかない。例えば、脱いだり、犯罪に近しいことだったり。迷惑系YouTuberなどはこれに該当するだろう。本作にも似たような存在が登場する。

 ここで、忘れてはいけないにもかかわらず、ほとんど忘れ去られていることがある。「ペンは剣よりも強い、スマホはペンよりもっと強い」ということだ。

 剣よりも強いということは、裏返せばそれだけ危険な「凶器」でもあるということだ。即座に世界中に情報をばらまけるスマホの能力を考えれば、比較対象は剣では物足りない、爆撃機くらいでちょうどいいかもしれない。

 しかし、現代の多くの人間はその危険性を充分認識しないままその凶器をふるっているのではないか。結果、誰かを無用に傷つけ、自らをも危険にさらしている。

 本作の後半、田母神もゆりちゃんも、互いの誹謗中傷のためにスマホとYouTubeを凶器にしてしまう。凶器としてのスマホを象徴するシーンがある。ゆりちゃんに呼び出された田母神は、自撮り棒つきスマホをゆりちゃんに突き付ける。負けじとゆりちゃんも自撮り棒つきスマホを田母神に突き付ける。2人は、自撮り棒でカンカンと打ち合うようにして互いを撮りながら罵り合う。長い棒で打ち合っているその姿が、筆者にはなんだかフェンシングの決闘のように見えた。

 かつての欧州貴族は、名誉のためにフェンシングで決闘した。YouTuberは、レイピアではなく自撮り棒つきスマホで名誉のために決闘するのだ。

 結局のところ、2人とも凶器としてのスマホの怖さに充分に気づいていない。大人である2人がそのことに気づかないくらいだから、中学生ならいわずもがなだ。ハイパーマリオを名乗る中学生YouTuberが田母神を追い詰めていくが、彼はスマホが凶器だとは微塵も考えていないように見える。

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