『バズ・ライトイヤー』北米で低調な滑り出しの原因は? 夏の映画興行に早くも一波乱
夏の映画興行戦線に、早くもひとつめの波乱だ。ディズニー&ピクサーの人気シリーズ『トイ・ストーリー』から派生したスピンオフ映画『バズ・ライトイヤー』が、事前の予想を大きく下回る滑り出しとなったのである。6月17日~19日の北米興行収入ランキングは、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』が変わらず第1位。『バズ・ライトイヤー』は第2位での初登場となった。
6月17日に北米公開を迎えた『バズ・ライトイヤー』は、4255館で上映され、3日間で興行収入5100万ドルを記録。コロナ禍の新作映画としては優れた成績だが、同じファミリー映画としては『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』の初動成績である7210万に届かなかった。事前予想では3日間で最低7000万ドルを稼ぎ出すとみられていただけに、ピクサーや『トイ・ストーリー』ブランドとしてはいささか寂しい結果だ。
報道によると、ディズニー&ピクサーは『バズ・ライトイヤー』に製作費2億ドル、宣伝費に数千万ドルを投じたとのこと。5100万ドルという滑り出しは『リメンバー・ミー』(2017年)や『レミーのおいしいレストラン』(2007年)と肩を並べているため、今後の状況次第では北米興収2億ドル超えも不可能ではない。しかしコロナ禍の興行傾向や、ディズニープラスでの早期配信戦略を考えれば、当時と同様の推移を期待するのは無理があるだろう。
『バズ・ライトイヤー』はRotten Tomatoesにて批評家スコア77%、観客スコア86%を記録。劇場の出口調査に基づくCinema Scoreでは「A-」評価を獲得しており、評判は決して悪くない。客層は男性が52%、女性が48%という割合で、18~34歳の観客が全体の61%を占めた。なお本作は海外43市場で公開されており、全世界興行収入は8560万ドルを記録。こちらも事前には「最大1億3500万ドル」と予測されていたため、期待を下回った格好だ。
むろん、ピクサー作品がランキングの初登場1位を獲得できないケースにも前例があり、2015年には『インサイド・ヘッド』が『ジュラシック・ワールド』に、同じく『アーロと少年』が『ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』に敗れて第2位での初登場となった。しかし、どちらの作品もシリーズには属さない単独映画であり、事実上の『トイ・ストーリー』シリーズ最新作である『バズ・ライトイヤー』とは条件が大きく異なる。
では、なぜ『バズ・ライトイヤー』は期待に及ばないスタートを切ることになったのか? 決定的な理由はわからないまでも、いくつかの理由を推測することはできる。ひとつは、『トイ・ストーリー』ファンの期待とはわずかに異なるスピンオフとなったことだ。本作は「バズ・ライトイヤーというおもちゃはSF映画から誕生した」という設定に基づく“劇中劇映画”であるため、バズのデザインは『トイ・ストーリー』とは異なり、声優もティム・アレンからクリス・エヴァンスに交代となった(日本語吹替版は所ジョージから鈴木亮平に)。このことで「キャラクターよりも『トイ・ストーリー』が好き」だという層や、「『トイ・ストーリー』のバズが好き」なファンへの訴求力を欠いた可能性がある。
また、コロナ禍におけるディズニーの戦略が足を引っ張ったことも否定できない。ディズニーは『2分の1の魔法』(2020年)を最後に、ピクサー作品の劇場公開をしばらく見送り続けてきた。『ソウルフル・ワールド』(2020年)、『あの夏のルカ』(2021年)、『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)はディズニープラスでの配信となったが、これはディズニープラスの会員数増加や興行的なリスクヘッジを見込んだもの。『バズ・ライトイヤー』はピクサー映画としては2年ぶりの劇場公開作となったが、配信への切り替えが続いたことで、ピクサーブランドがいくらか毀損された面もあるのではないか。