ドアンは誰もが惹かれる男 『ククルス・ドアンの島』はアムロの“if”ストーリーに

 アニメやテレビドラマ作品を称える際、「神回」という言葉が使用される。物語がピークを迎えた回や、圧倒的な映像表現などがあった回などは「神回」がSNSでトレンド入りすることも珍しくない。その一方で、アニメ作品でしばしば目にするのが、「作画崩壊」という言葉だ。笑いものにするようなネガティブな意味で使われているが、作画が崩壊していても味がある回というものも存在する。今回は『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』から、ファンの間では賛否の分かれやすい回を現代にリメイクした意義について考えていきたい。

 本作は、国民的人気シリーズである『機動戦士ガンダム』シリーズの中でも、話題になりやすい第15話の「ククルス・ドアンの島」を、現代にリメイクした作品。オリジナル版にてキャラクターデザインや作画監督などを務めた安彦良和を監督に迎え、主人公アムロ・レイ役の古谷徹をはじめとしたオリジナルキャストも多く参加し、往年のファンに嬉しいスタッフ、キャストが揃った作品となった。

 今作の基となった第15話「ククルス・ドアンの島」は、曰く付きの回とも言える。安彦良和はインタビューにて「テレビアニメのあれは『捨て回』だったんです。」(※1)と答えるなど、決して評価が高かった回ではない。ファンからも愛されるいわゆる“神回”というよりは、良くいえばダメな子ほど可愛いという意味合いも込めて“ネタ回”と言われてしまうような出来栄えだ。

 その理由としては作画の荒れ方が顕著な点にある。一方で、本作の総作画監督である田村篤は、この第15話について「味といえば味ですし。絵のうまさをデッサン力だけで見ないところもあって、ゆがみにこそ味があると、ある程度そう思っているところがあるんです」(※2)と答えている。

 筆者としても、揶揄されるほど悪い回だとは思っていない。40年以上前の作品であること、企画時には1年間放送を予定していた長期クールの作品だったことも考えると、全ての回を高品質に保つのは難しく、このような回が出てくるのはむしろ必然だ。『機動戦士ガンダム』シリーズは総合的にレベルが高く、シリーズ全体を通して高品質な作品となったからこそ、他の回と比較すると荒いこの回が、より目についてしまったという一面もあるのではないだろうか。

 今作は当時の問題箇所であった作画の荒れを、再解釈した作品となっている。例えばククルス・ドアンの乗るモビルスーツのザクは、本来であれば量産機であるため、機体ごとの個性はない。しかし作画の荒れによって“鼻”が長いなどの特徴をもつために、ファンにはドアンザクという名称で親しまれていた。今作ではドアンが改修した結果による変化とし、その荒れをむしろ個性と捉え、ドアン専用機としてデザインし直すことを選択している。

 作品全体のテイストとしても、初代の『機動戦士ガンダム』に対する敬意が大いに感じられる作品だった。近年公開されたガンダムの映画作品である『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、現代的でスタイリッシュなキャラクターや、実在する場所を採用した緻密な背景描写、暗い中でも活躍する迫力のあるモビルスーツ戦などで、まさに現代のガンダムと呼ぶにふさわしい作品となっていた。

 一方で今作は基となった『機動戦士ガンダム』の持ち味を壊すことなく、丁寧な映像表現を施した作品だった。特に人物の描写は、コミカルな一面や動きがとても多く感じられた。この辺りは安彦監督らしい動きや人物の魅力と言えるのではないだろうか。脱走兵との交流というシリアス一辺倒になりがちな話を、細やかに笑いを入れることで緊張を緩和し、娯楽作品として楽しめるようになっている。

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