『はい、泳げません』綾瀬はるかが全ての“できない”人の女神に 踏み出す勇気をくれる一作

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、平泳ぎだけ異様に上手な花沢が『はい、泳げません』をプッシュします。

『はい、泳げません』

 泳げない人に捧ぐ。

 原作である同名エッセイは、こんな一文から始まります。『弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜』(新潮社)で知られるノンフィクション作家・高橋秀実が原作を務め、『舟を編む』の渡辺謙作監督が脚色を加えて映画化した本作。

 冒頭の献辞が示しているように、長谷川博己演じる主人公・小鳥遊は泳ぐどころかプールに入ることすらできません。この映画は、そんな泳げない男・小鳥遊が、綾瀬はるか演じる変わり者のコーチ・薄原静香のスイミングスクールに入会する場面から始まります。

 『シン・ゴジラ』や『麒麟がくる』(NHK総合)での知的で落ち着いた雰囲気とは打って変わって、本作の長谷川博己は水に触れるたびに慌て、焦り、声を震わせます。顔を洗う時さえ恐る恐るといった様子で、水泳教室のおばちゃんにプールに落とされて半泣きになる小鳥遊を観ていると、“できない人”の滑稽さを笑うコメディのように思えるかもしれません。

 ですが、本作はそんな“できない人”と“できる人”に見えている世界の違いを、とても丁寧に描き出しています。

 英語に苦手意識がある人の脳裏に、必ず口内の断面図――Lの発音は前歯の裏に舌がついていて、Rの時はついていない――があるように。あるいは、「逆上がり」と検索すると、「逆上がり 理論」とサジェストされるように。“できない人”は、つまり“考えすぎてしまう人”でもあります。

 泳げない小鳥遊も、哲学教授という肩書通り完全な理論派で、プールに入るとまず「筋肉の動かし方」や「息継ぎのタイミング」で頭がいっぱいになってしまうのです。

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