『オビ=ワン・ケノービ』は『スター・ウォーズ』シリーズで最も神話的な物語になり得る?

 小さいながら、大人をも理屈で言い負かす聡明で活発なレイアを演じているのは、ヴィヴィアン・ライラ・ブレア。見た目もレイアの面影を強く感じる彼女は、姫として育ったことで、言葉遣いは丁寧だが、ものごとの善悪を見定めようとする意志や、体制におもねらない反骨精神など、強い芯を持っている。そんな彼女の成長の姿を、ブレアは見事に演じているといえよう。また、凄腕の男が小さな女の子を守り抜く物語という点で本シリーズは、映画『勇気ある追跡』(1969年)や『マイ・ボディガード』(2004年)を想起させるところがある。

 またレイアのみならず、帝国軍の非道を見かねてレジスタンス活動をしているターラ(インディラ・ヴァルマ)や、悪の道に染まりジェダイ狩りをしながら帝国軍での地位をつかんでいく“サード・シスター”ことリーヴァ(モーゼス・イングラム)など、強い意志を持った女性キャラクターが次々に登場する部分は、いかにも現代の作品だといえよう。

 第3話で描かれるはずだった恋愛要素を排除したという話が伝わっているように、本シリーズのサブとなるテーマは、レイア姫に代表される、意志を持った女性を描くことであろう。全話の監督を務めているのは、シリーズ『マンダロリアン』で演出の経験を積んだデボラ・チョウである。

 しかし、あくまで本シリーズの主役はオビ=ワンだ。戦いに敗れ、辺境の惑星タトゥイーンでジェダイへの迫害から身を隠し、ルーク・スカイウォーカーの成長にしか生きがいを見出せなくなった彼の姿は痛々しい。辛い労働に従事し、かつての活発さやユーモアも失われている。しかし、過去の痛みや罪悪感に苦しみながらも生きていくしかない彼が、安価な家畜イオピーに乗りながら荒野を進む様子は、映画『許されざる者』(1992年)を想起させる、いぶし銀の西部劇を観ている充実感がある。

 そして、第3話でついにダース・ベイダーと相対することとなるオビ=ワン。満足に防戦することすらできず、かつての弟子からひたすら逃げ惑うしかない状況はショッキングだ。何の罪もない市民や子どもまでをも、オビ=ワンをおびき出すためだけに躊躇なく殺害していくベイダーの姿に衝撃を受けるユアン・マクレガーの演技は、「エピソード3」を前提にしているからこそ、こちらの胸も苦しくなってしまうほど切迫したものとなっている。

 それでも「エピソード4」では、オビ=ワンのユーモアやバイタリティが、以前のように戻っていた。このことから逆算すると、おそらく彼はレイアとの出会いやダース・ベイダーとの戦いのなかで、失意の底から蘇ることとなり、かつての師クワイ=ガン・ジン(リーアム・ニーソン)“がたどり着いた、フォース”の深淵に目覚めていくのだろう。

 無様に拷問のような仕打ちを受けたオビ=ワンの、今後のエピソードで描かれるだろう復活劇は、『許されざる者』においてイーストウッド演じる老ガンマンが、一度リンチに遭って“半死半生”の状態になった後に、凄まじい力を得る流れや、黒澤明監督の『用心棒』(1961年)で、三船敏郎演じる浪人が同じような状況に陥る様を思い起こさせる。このような一種の寓話性は、新約聖書においてイエス・キリストが残忍な迫害によって命を落とし、その後復活するというエピソードを思い起こさせるものだ。

 それは、西部劇映画のレジェンドの一人であるイーストウッドがかつて『荒野の用心棒』(1964年)で、三船同様の役を演じたことや、かつてアレック・ギネスに役が決まる前に三船敏郎にオビ=ワン役のオファーがあったこととリンクしているはずである。ジェダイ狩りをする尋問官たちがタトゥイーンに降り立ち、大衆的な食堂に潜伏するジェダイを捜索し、善良な店主に問い詰める場面は、『用心棒』へのオマージュだと考えられる。

 旧三部作の「エピソード6」の最後の展開は、ルークとベイダーの戦いが、まるで運命に弄ばれる英雄を描いたギリシャ悲劇であるかのような重厚さを持っていた。同様に『オビ=ワン・ケノービ』も、キリストのような復活が期待されるという点で、『スター・ウォーズ』シリーズのなかで最も神話的なものになり得る物語といえないだろうか。残りのエピソードで、それがどのように描かれるかが、今後の見どころとなるだろう。

■配信情報
『オビ=ワン・ケノービ』
ディズニープラスにて配信中
監督:デボラ・チョウ
出演:ユアン・マクレガー、ヘイデン・クリステンセン、モーゼス・イングラム、ジョエル・エドガートン、ボニー・ピエス、クメイル・ナンジアニ、インディラ・ヴァルマ、ルパート・フレンド、オシェア・ジャクソン・Jr、サン・カン、シモーヌ・ケッセル、ベニー・サフディ
製作総指揮:キャスリーン・ケネディ、ミシェル・レイワン、デボラ・チョウ、ユアン・マクレガー
脚本:ジョビー・ハロルド
(c)2022 Lucasfilm Ltd.

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