シェイクスピア原案のアニメ『薔薇王の葬列』 常識も予想も全て覆す新解釈に目が離せない

 物語の中でリチャードは、多様なキャラクターと関わる中で愛を知っていく。リチャードが触れる愛の形は一つではなく、心安らぐ愛や憎しみを伴う愛、そして性別の枠組みを意図しない愛もある。

 本作におけるリチャードは、男性性と女性性の両方を備えた「両性具有」の身体を持つ。性自認は男性であるものの、リチャードの性別に対してはキャラクターの視点ごとに認識が異なっている。

 あくまで両性具有は身体的特徴のひとつに過ぎないが、自分が男なのか女なのかわからないリチャードと同じように、自分が一体何者なのかを模索しながら日々を過ごしている人は多いのではないか。何者かでなければどこか許されないような無意識の焦燥感に駆られる日々に、本作は「何者にでもなれる」という新しい視点を与えてくれた。世の中の固まったステレオタイプを美しく砕いていく、という点でも本作は魅力的だ。

 また、作中でリチャードがアンに対して感じる安らぎの感情と、ヘンリー六世に対して感じる激しい憎悪が混ざった感情は、どちらも愛と捉えることができる。少し視点を変えれば、従者のケイツビーがリチャードの正体を知ってもなお己の忠誠心を真っ直ぐに捧げるのも、種類の異なる愛ゆえの行動だ。大切に思う人への愛の形が一つではないことが、それぞれのキャラクターの行動から伝わってくる。

 これは愛に限った話ではない。血縁でつながっているから必ずしも分かり合えるとは限らないこと、周りの意見に左右されずに、自分の本当の声だけをただ信じ抜くこと。中世を舞台に繰り広げられる薔薇戦争を舞台に自由をうたう強いメッセージは、現代を生きる私たちの心の奥を揺さぶる。

 果てしない絶望の中にいても己の野心に灯る光を信じて突き進むリチャードの姿は、年齢、性別を超えて多くの人に刺さるだろう。そこにあるのは、正義が必ず勝つテンプレートな物語ではなく、悪をさらなる巨悪で倒す物語だ。

TVアニメ「薔薇王の葬列」ティザーPV

 リチャードをヒーローまたはヒロインとして捉える人もいれば、王家の人間を手にかける悪魔だと感じる人もいるだろう。常識も予想も全て覆してしまう、リチャードという圧倒的な存在の受け止め方は観る人によって変わる。性も立場も定めない小さな王の物語はあなたにはどう映るだろうか? 今までにはない新たな主人公の姿を、自分の目で確かめてみてほしい。

■公開情報
『薔薇王の葬列』
TOKYO MXにて、毎週日曜22:30~放送
BS11にて、毎週火曜24:00~放送
サンテレビにて、毎週日曜23:30~放送
KBS京都にて、毎週日曜23:30~放送
AT-Xにて、毎週金賞23:00~放送
原作:菅野文『薔薇王の葬列』(秋田書店 『月刊プリンセス』)
原案:ウィリアム・シェイクスピア 『ヘンリー六世』 『リチャード三世』  
監督:鈴木健太郎
声の出演:斎賀みつき、緑川光、速水奨、鳥海浩輔、内匠靖明、三上哲、日野聡、大原さやか、天﨑滉平、鈴代紗弓、真野あゆみ、伊藤静、久川綾、杉山里穂、杉田智和、悠木碧、緑川光、甲斐田裕子、石田彰、大塚芳忠
シリーズ構成・脚本:内田裕基
キャラクターデザイン:橋詰力
美術監督:泉健太郎
色彩設計:店橋真弓
撮影監督:高橋昭裕
音響監督:岩浪美和
音楽:大谷幸
音楽制作:ランティス
アニメーション制作:J.C.STAFF
(c)菅野文(秋田書店)/薔薇王の葬列製作委員会

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