深津絵里、表情だけで見せた圧倒的な演技 『カムカム』演出も絶賛の一発撮りの裏側

 『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第109話にて、アニー・ヒラカワ(森山良子)がラジオを通じ、娘・るい(深津絵里)に向けて語りかけた。

 岡山の偕行社で開かれる、クリスマスライブ当日。ひなた(川栄李奈)が付けたラジオから聞こえてきたのは、アニーの声だった。磯村吟(浜村淳)がラジオパーソナリティを務める番組にゲストとして招かれたアニーは、ハリウッドで活躍するキャスティングディレクターの日系アメリカ人という立場でインタビューを受ける。アニーの様子に異変が起きるのは「初めて観た映画」という話題からだ。アニーは名作『風とともに去りぬ』という言わばベタな回答をするが、その公開年が1939年ということから、磯村は同年に日本で公開されていたシリーズ第2作目の『棗黍之丞 仁義剣』へと話題を繋げる。これは磯村が、アニーが『棗黍之丞』シリーズの大ファンだと知っての質問であるが、かつて安子(上白石萌音)が大阪で暮らす稔(松村北斗)と観た思い出の詰まった作品でもあった。

 俯き黙り込むアニーに、番組サイドは一旦の曲を挟もうとするが、アニーは「観ました」と堰を切ったように話し出し、そこから5分間を超える独白が始まる。結婚、出産を経て、話は徐々に家族の歯車が狂い出す戦後へ。後悔の念を口にしながら、アニーはついに「るい」と語りかける。英語、日本語、岡山弁と変化していくその口調は、アニーとして、安子として、そして母として立場を変えていく。

 特徴的なのは、ラジオブースで話すアニーは一貫して後ろ姿に徹し、カメラはるいの表情をメインに捉え続けることだ。演出を手がける安達もじりは、編集に悩みながらも「このドラマでは、ずっとラジオを聴いている側を描いてきたので、人と人を繋ぐ瞬間の表現をするにあたって、その聴いている側のるいとひなたを中心に表現するのが一番気持ちがダイレクトに伝わるんじゃないか」という思いに至ったという。制作統括の堀之内礼二郎も、「ラジオは人と常に生きてきた、ぬくもりが感じられるメディア。人の温度感が伝わる描き方ができた」とラジオを介しての伝え方についての思いを語った。

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