『SING/シング:ネクストステージ』にみるシリーズ人気の理由 娯楽産業の抗い難い魔力

 『SING/シング:ネクストステージ』は、前作のコンテストの出演者たちが、ムーン劇場のミュージカルの舞台に立ち、街の観客を連日沸かせている場面より始まる。バスター・ムーンは、ついに自分の劇場でショーをヒットさせることに成功したのである。出演者たちも満足そうだ。しかしムーンは、それでもなお、物足りないものを感じていたようで、より大きな舞台での公演を目指し、スカウトに捨て身のアピールを続け、ターミネーターのように乗用車を追跡する姿を見せる。この無茶さは、さすがムーンだといえよう。

 第一線のスカウトの目から見ると、ムーン劇場の出演者たちは力不足だと感じるようだ。前作で見事な歌唱を見せた面々は、ムーンのもとでプロのエンターテイナーとしての一歩を踏み出した。だが、まだまだ経験や能力に欠ける部分が多く、それぞれに課題を持っている。ゾウのミーナは恋愛の表現に難があり、ブタのロジータもまた、新たな恐怖心に襲われることとなる。

 また、パートナーを亡くした心の痛みから、再び歌うことができなくなったロックスター、ライオンのキャロウェイ(U2 ボノ)や、高圧的なダンスの指導で指先が震えるようになってしまったジョニーなど、パフォーマンスとメンタルとの関係を描いていることも、本作の特徴だといえる。新たに登場した、ジミー・クリスタルの娘である、カリスマ性と魅力にあふれたポーシャ(ホールジー)と、念願の主演の座を射止めたはずのロジータも、主役争いによって互いに傷ついていくこととなる。ショービズ界につきものの、このような衝突が表現されるように、本作は前作以上にネガティブな部分をフォーカスしているといえるだろう。

 ロジータにチャンスが与えられるという展開は、もともと主婦業に忙殺される彼女が、プロのエンターテイナーとして最も過酷な立場にあるという設定だったからだろう。たしかに前作で、彼女は夫の愛情を取り戻すことに成功するが、彼女の夢であったはずの、歌の世界で成功する道筋の方は依然として見出しづらく、しこりが残った部分ではあった。そんな彼女が世界的な成功の扉を開くというのは、より多くの才能に可能性を与えるべきだというメッセージを含んでいる。

 このような心理的葛藤や、危機的状況を乗り越えた先に待っている「カーテンコール」のシーンは、本作の観客が、ムーンや出演者たちの視点から客席を眺め、その感動を擬似体験できる構図によって表現される。より高いレベルで舞台を完成させるには、より多くのものが求められるのは道理だ。高い壁を乗り越える過程において、努力はもちろん、挫折に遭って傷つくことは避けられない。しかし、そういった面があるからこそ、スターはさらに輝くことができ、そうやって掴んだものによって観客を感動させることに、さらなる充実感を得られるのである。

 “The show must go on.”……そして、ショーは一度始まってしまえば、観客のために何があろうとやり抜かなければならない。そのプロ意識こそ、本作が描き出すエンターテインメントの中核にあるものである。動物たちのキャラクターによって表現されるアニメーション映画である本シリーズが、このように娯楽を提供する者たちの本質に到達し、味わい深いものになったことは、前作に続き、われわれにさらなる驚きを与えることになったといえるだろう。

■公開情報
『SING/シング:ネクストステージ』
全国公開中
監督・脚本:ガース・ジェニングス
製作:クリス・メレダンドリ、ジャネット・ヒーリー
キャスト:マシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソン、タロン・エジャトン、トリー・ケリー、ニック・クロール、ボビー・カナヴェイル、ホールジー、ファレル・ウィリアムス、ニック・オファーマン、レティーシャ・ライト、エリック・アンドレ、チェルシー・ペレッティ、ボノ
日本版キャスト:内村光良、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジェル)、大地真央、坂本真綾、田中真弓、ジェシー(SixTONES)、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、稲葉浩志
配給:東宝東和
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