香川照之と野村萬斎の演技合戦 『七つの会議』は『半沢直樹』チームのひとつの集大成に

 映画『七つの会議』がTBS系で4月3日21時から放送される。

 2019年に劇場公開された本作は、池井戸潤の同名小説(日本経済新聞出版社)を映画化したものだ。

 舞台は都内の中堅電機メーカー・東京建電。営業部二課長の原島万二(及川光博)は、営業部長の北川誠(香川照之)に叱責され、厳しいノルマに苦しんでいた。

 対して、一課長の坂戸宣彦(片岡愛之助)は、毎月ノルマを達成し順風満帆だったが、万年係長の八角民夫(野村萬斎)から度重なるパワハラを訴えられ、人事部に左遷されてしまう。その後、原島が一課長の仕事を引き継ぐこととなるのだが、やがて八角が社内で奇妙な動きをしていることに気づく。

 本作は、電機メーカーを舞台にした企業ミステリーとなっており、営業課長の原島と女性社員の浜本優衣(朝倉あき)が八角の素性を探っていく過程で「東京建電の抱える深い闇を知っていく」という構造になっている。

 監督は福澤克雄。2013年に日曜劇場(TBS系日曜21時枠)で放送され大ヒットした『半沢直樹』以降、日曜劇場で放送される池井戸潤原作の企業ドラマを一手に手掛けてきたディレクターだ。

 池井戸潤の作品は日本の会社組織の内幕をミステリー仕立てで暴いたものが多く、硬派な企業小説として高い評価を受けている。

 そのため、『空飛ぶタイヤ』や『鉄の骨』といった作品が『半沢直樹』以前にもドラマ化されていたが、WOWOWのドラマWやNHKの土曜ドラマといったドラマ枠で放送されていたため、当時はまだ、玄人向けの重厚な企業ドラマという印象が強かった。

 その流れを大きく変えたのが『半沢直樹』の大ヒットだ。

 『半沢直樹』の成功以降、池井戸潤作品は民放のドラマでも続々と映像化されていったのだが、福澤は『半沢直樹』をドラマ化する際に黒澤明の映画『用心棒』のような「活劇」にしたかったと、インタビュー(※)で語っている。

 おそらく福澤は池井戸潤の小説を“現代の時代劇”として捉えたのだろう。会社を武家、社長を殿様、会社員を侍、町工場の人々を虐げられる庶民に置き換え、会社で起きる様々なトラブルを御家騒動と捉えるととても納得がいく。そしてバンカーの半沢は弱者を守る正義の侍として銀行内の権力闘争に立ち向かっていく。復讐のために権力の頂点を目指す半沢はある種のダークヒーローだが、銀行や会社といった企業を武家社会に見立て、理不尽なシステムに立ち向かう活劇として描いたからこそ『半沢直樹』は成功した。後に続く、他の池井戸潤ドラマもこの構造を踏襲している。

 今回の『七つの会議』では、東京建電の親会社・ゼノックスの徳山郁夫社長(北大路欣也)が、大名を意味する御前様と呼ばれており、徳山社長の出席する会議は「御前会議」と言われていた。

 映像にもこのテイストは強く現れている。

 例えば、ドラマ版『七つの会議』は『半沢直樹』と同時期に作られたNHKドラマだが、
ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』のテイストで会社組織の闇を描いた暗鬱とした作品となっており、同じ物語を描いていても映画版『七つの会議』とは印象がだいぶ違う。

 演出が『外事警察』(NHK総合)の堀切園健太郎ということもあってかドラマ版『七つの会議』の映像は『ハゲタカ』以降のNHKの企業ドラマの系譜にある硬派な重苦しいものとなっている。描かれるのは会社組織に翻弄されるサラリーマンの悲哀で、人間が組織のパーツとなってしまう恐怖が強く打ち出されていた。

関連記事