菅田将暉、『鎌倉殿の13人』の“残酷な喜劇”を牽引 義経が愛すべきやっかいな男に
目的のためならどんな手段も厭わない。今夜食べたい兎の前に障害物が立ちはだかったら、例え自分に非があろうと、それが人間であろうと躊躇なく取り除く。フットワーク軽くどこにでも赴き、なかなか会えないならアポなしでぶつかる。無邪気に兄・頼朝との再会に泣き、褒められて喜び、怒られたら落ち込み、時に兄嫁・政子の膝枕を思う存分堪能する。周囲の空気を読む気は全くない。己の欲望のまま行動する、野性味溢れるキャラクター。
こうやって自由奔放な行動を羅列していくと、あっちを立てこっちを立てと奔走する義時に共感せずにはいられない、集団の和を乱すまいと日々励むサラリーマンたちにとってはどこか羨ましい気がするのではないだろうか。義時が義経を誰より優しい眼差しで見守っているのもわかる気がする。
義経は、皆がツルツル滑る里芋を箸で取ろうとして苦戦する中、躊躇なくそれを突き刺して口に放りこんだ。それは、彼が、皆が心の底で思っていてもなかなかできないことをやってのける人物であることを示している。そしてその性質は、一面では平家を滅亡に導く奇策の数々に繋がり、もう一面では、自分にないものを見つめる人々による、親愛の情だけでなく妬みや嫉みを生むきっかけとなり得るだろう。また、亀の前事件が「義経の介入によって大ごとになってしまった事件」として描かれたことで、彼の存在が、「和をもって貴しと為す」組織の中でいかにリスキーであるかということが示されてしまった。サイコパスかつサークルクラッシャー的にも見えてくる義経は、鎌倉殿と御家人という主従関係が敷かれ、着々と築かれていく頼朝による独自政権をどうかき回していくのか。なかなかに面白く、愛すべき、やっかいな男である。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK