『ザ・バットマン』176分の最大の問題点 “第2作が傑作”シリーズの伝統に続くか

 さぁ、闇の騎士の帰還だ。大成功を収めたクリストファー・ノーラン版“ダークナイト3部作”以来、10年ぶりのバットマン単独作の登場だ。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の監督を務めるマット・リーヴスは、ノーラン版のリアリズムとティム・バートン版の表現主義的な暗さをマッシュアップし、名手グレイグ・フレイザーのカメラを得て特濃とも言うべき176分の闇の大作を仕上げた。

 わずか1シーンを除いて全編が夜間シーンで構成される本作は、その暗黒の映像美で観る者を圧倒する(意外にもスタンドアローン作品と言われていたトッド・フィリップス監督作『ジョーカー』からの継承も少なくない)。主人公をはじめ登場人物の心象として映されるのは、闇に沈んだゴッサムシティの景観と、降りしきる雨。マット・リーヴスは社会風刺を伝統とするSF『猿の惑星』シリーズを経て、本作では悪役リドラーを議事堂占拠を誘発する陰謀論者やインセル、そしてキャンセルに陶酔するネットの闇に棲む者として描き出している(リドラーのSNSフォロワーがたったの500人というのも妙味だ)。

 リドラーは1960年代にサンフランシスコ一帯を震撼させた連続殺人鬼ゾディアックを彷彿とさせる衣装に身を包み、醜い自己顕示欲を発露する。本作はずばり『ゾディアック』や『セブン』『マインドハンター』などデヴィッド・フィンチャー作品の影響が色濃く、リドラー役の才人ポール・ダノはジョン・ドゥよろしく無防備な生身にこそ不気味さが宿る。

 そんな闇と狂気のゴッサムシティに舞う新生バットマンを演じるのがロバート・パティンソンだ。デヴィッド・クローネンバーグはじめ数々の鬼才、異才、奇才とコラボレートし、押しも押されぬ怪優へと成長した彼が満を持してメインストリームに帰還した。歴代で最も美しい目と繊細さを見せるパティンソン版バットマンは活動2年目、両親を殺された復讐心が心身において彼を蝕んでおり、その病的な脆さは観ていて痛ましいほどだ。同じく“孤児”としてバットマンと共鳴するキャットウーマン役には躍進著しいゾーイ・クラヴィッツが扮し、映画に気だるい色気を持ち込んでいるが、それでもパティンソンの妖気にはかなわない。

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