『カムカムエヴリバディ』トミー北沢が夢への切符を握る 光り輝く太陽が照らすひなたの道

 初代ヒロイン・安子(上白石萌音)ゆかりの人物が次々と登場し、大きな話題となったNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』第20週。続く第21週では、るい(深津絵里)編からあの男が帰ってきた。本作で最もキャラが濃いと言っても過言ではない、トミー北沢(早乙女太一)だ。

 るいと錠一郎(オダギリジョー)が生活の拠点を京都に移して以降、一向に姿を見せなかったトミー。そのため、彼が今どうしているのか気になっていた視聴者も多いはず。そもそも話題にすら挙がらないことに少々違和感もあったが、その理由が第90話でようやく分かった。大部屋俳優から抜け出せず、夢を諦める決意をした娘・ひなた(川栄李奈)の彼氏である文四郎(本郷奏多)に自分の過去を語り始めた錠一郎。その場面で映し出されたのが、トランペッターとして一躍有名となったトミーのCDだった。

 トランペットを吹けなくなった錠一郎を見捨てた笹プロからの誘いを当初は頑なに断っていたトミーだが、「僕は世界で活躍してるトミーがみたい」という錠一郎の言葉に心を動かされたのか。見事にプロデビューを果たし、アメリカで演奏するという夢も叶えていたことが明らかとなる。もちろん親友の成功は喜ばしいことだが、同じ夢を追いかけていた錠一郎にとって病気にさえならなければ、自分もそうなれていたかもしれないと思わされる複雑な心境だった。そんな錠一郎の気持ちを察して、るいもあえてトミーのことは口にしなかったのだろう。

 もともと、錠一郎はトミーに対してある種の劣等感を抱いていた。関西一のトランペッターを決めるコンテストに出場するにあたって、ジャズ業界で有名な評論家からそれぞれ“太陽”と“月”に喩えられたトミーと錠一郎。しかし、「光り輝く太陽の前では、闇夜の月などまったく勝ち目はない」と言われてしまう。たしかにトミーはステージでの立ち振る舞いもパフォーマンスも華やかで、観客の視線を一挙に惹きつける。幼い頃から音楽の英才教育を受けてきたという絶対的な自信が彼をそうさせるのだろう。そんなトミーに勝つことが無謀に思えて落ち込む錠一郎だったが、たまたま観に行った映画『妖術七変化!隠れ里の決闘』で運命の言葉に出会う。

「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聴こえぬ歌がある」

 戦争で両親を亡くし、生きることに精一杯で希望など見えなかった日々に「On The Sunny Side Of The Street」が一筋の光を与えてくれたように、闇夜に浮かぶ月のような自分の音楽が誰かの心に刺さることもきっとある。そう信じて錠一郎はコンテストに挑み、優勝を勝ち取った。でもおそらく、トミーはとっくの昔から彼の才能を見抜いていたはずだ。コンテスト出場に乗り気ではない態度をとった錠一郎に怒りをあらわにしたのも、トミーは錠一郎が自分にないものを持っていると確信していたからに違いない。錠一郎が燦々と輝く“太陽”に憧れていたように、トミーもまた暗闇を優しく照らす“月”に思い焦がれていたのだ。

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