『妻、小学生になる。』を“ファンタジー”で終わらせない 主演・堤真一への信頼感

「新島家の時間は再び止まってしまった」

 『妻、小学生になる。』(TBS系)公式サイトの第9話のあらすじに書かれた一文に、不安が過ぎる。

 愛する貴恵(石田ゆり子)を失い、生きる意味を失った圭介(堤真一)と娘の麻衣(蒔田彩珠)の元に、突然現れた小学生・万理華(毎田暖乃)。初めは貴恵の生まれ変わりの姿として、過ごせなかった時間を埋めるように関わっていた家族だったが、それは、憑依にすぎなかった。3月11日に放送された第8話で、貴恵はその体を万理華に戻した。

 毎週、貴恵が乗り移った万理華役の演技が話題になっている毎田暖乃。その演技を受け止めるのが、主演の堤真一だ。抜け殻のようになった圭介から、万理華(貴恵)の前で浮き足立つような姿など、キャラクター味溢れる役柄を全うしている。ライターの佐藤結衣氏は、「万理華の入れ替わりに説得力を持たせているのが堤さんの存在」だと話す。

「この作品に立ちはだかる最初の壁は、“妻が小学生になって戻ってくる”というファンタジー設定を視聴者に受け入れてもらえるかどうか。そこで重要になってくるのが、視聴者と同じ視点で万理華の中に貴恵がいるということを疑う、堤さん演じる圭介のリアクションだと感じました。石田さんと毎田さんの役を受け止める側のリアクションに嘘があると、一気に冷めてしまう難しい役どころだとも言えます。そのファンタジーな展開に疑いながらも、信じざるを得ない説得力。その信頼感が自然と漂っているのが、堤さんの演技のすごいところではないでしょうか。また、圭介の魅力でもあるのですが、“無自覚さ”を自覚的に演じられているところも流石のひとこと。貴恵の言う、圭介自身がわかっていない母性本能をくすぐるような仕草や言動を、堤さんも客観的に捉えて圭介という人を表現しているのを感じます。インタビュー時(堤真一が語る“親心” 「『ダメ』ではなく『やってみな』と言えるようになりたい」)には、圭介に対して『共感できない』と話していたのが印象的だったんですが、共感できないからこそ、自分の中の共通点を絞り出すというよりも思い込みなく演じてられているようにも見えます。その冷静な視点で捉えたフラットな演技ゆえに、視聴者としても“なんか憎めないこういう人いるよね”と素直に受け止められるのではないでしょうか」

 主演としての自然な立ち回りが堤真一の魅力だと佐藤氏は続ける。

「これまで数々の名作に出演されて、様々なキャラクターを演じられていますが、“堤真一”という俳優さんを思い返したときに、強い固定観念がないなと思うんです。コメディにもシリアスにも振り切れるし、役のイメージに俳優さんとしての印象が固まらない人。だからこそ、次はどんな顔を見せてくれるのかと毎作ワクワクさせてもらえるようの思います。また、そうしたどんな作品にでも馴染む自然な演技力ゆえに、共演される方の演技にも光を当てられるのではないかなと。本作は、主演こそ堤さんですが、毎田さんの演技がこれほど注目されるのも、そんな照らす力があってこそかと。自分の役柄を全うすることはもちろんですが、その作品における役割をもうまく演じられているからなのかなと思いました」

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