『鎌倉殿の13人』に刻まれた芹澤興人の泣き顔と笑顔 “八重の夫”江間次郎の切ない最期
『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第9回「決戦前夜」。和田義盛(横田栄司)と畠山重忠(中川大志)は、頼朝(大泉洋)の命で伊東に向かう。北条義時(小栗旬)と三浦義村(山本耕史)は、伊東祐親(浅野和之)と八重(新垣結衣)を救うため、急ぎ伊東の館へと向かった。
物語終盤、孤独を感じた頼朝の前に弟・義経(菅田将暉)が現れ、2人が涙を流しながら抱き合う姿に心動かされた。だが第9回で忘れてはならないのは、自らの信念を貫き行動した2人の人物である。1人は愛する女性を守り抜き、1人は坂東武者としての思いを真摯に訴えた。
1人目は祐親の家人で八重の夫である江間次郎(芹澤興人)だ。次郎は祐親から、八重を頼朝に渡すより殺せ、と言われていた。意を決して刀を抜き、八重と向き合う次郎だが、刀を手放すと八重の前に膝をつく。そして「俺にはできません。俺にはあなたを殺せない」とすすり泣く。
すすり泣く次郎といえば、第5回の舟漕ぎシーンが思い出される。次郎は「私はあなたの夫だ。侮るな!」と大声をあげたが、芹澤の怒り慣れていないような表情や裏返った声色から、次郎が優しい人物であることがすぐに分かる。八重の命に従って舟を出すしかなく、すすり泣きながら舟を漕ぐ姿に、SNS上では同情の声があがっていた。
一方で、第9回のすすり泣きは不憫なものではなかった。確かに、次郎を演じている芹澤は顔をくしゃくしゃにして泣き崩れていたし、「急いで!」と言う声は涙声で、決して勇ましくはない。だが、八重への一途な想いを曲げない次郎の姿勢は魅力的に見えた。それから、八重に引かれた手をそっと離す次郎の優しい微笑みも忘れられない。次郎と八重の間には身分の差があり、八重の次郎に対する言動は冷ややかなものだった。それでも次郎は一心に、八重を愛していた。八重が自分を気にかけてくれた、その気持ちで十分だと伝えているような笑顔だった。公式Twitterのコメントで、芹澤は江間次郎の魅力について「愛をすごく信じている感じがすごくして純粋な人なんだろうなと思います」と答えているが、芹澤の泣き顔からも笑顔からも、その魅力は十分に伝わっている。
不意に現れた善児(梶原善)によって致命傷を負った次郎だが、善児にしがみつくと「逃げて!」と叫ぶ。次郎は最期の最期まで八重を守り抜いた。芹澤は、一見表情がないように見えながらも台詞の言い回しや視線や体の絶妙な動きで感情の機微を表し、不憫で不器用で、でもまっすぐな次郎の想いを演じていた。芹澤の演技が見納めになると思うと少し寂しい。
もう1人は義時の父・北条時政(坂東彌十郎)だ。