『リメンバー・ミー』は単調な“家族愛”の物語に収まらない 多角的に描写される“死”
また、「死」に対して多角的な描写をすることによって、人それぞれの価値観の相違を理解し、多様性を学ぶこともできる。
『リメンバー・ミー』の制作にあたっては、メキシコの文化・伝統・しきたり、ありとあらゆる文化的側面を徹底的にリサーチした上で行われた。一例として挙げられるのは、ミゲルの相棒である犬のダンテはメキシコで古くから愛されていた犬種であるショロイツクインツレであることや、死者の国で出会うアレブリヘはペドロ・リナレスというメキシコの芸術家によって作られ、祖国では工芸品として普及したことなどがある。
映画にはさまざまなメキシコ文化が反映されており、描写に込められた意味は概念や信仰にまで及ぶ。日本からは遠く離れた国の文化であるゆえに、私たちにとってはどれも目新しく、色鮮やかに映ることだろう。
デザインまわりで特筆すべき作品として、2020年にディズニープラスで配信された『ソウルフル・ワールド』にも注目したい。「現世」と「生まれる前の世界」を同時に描いた本作では、ニューヨークの混沌とした街並みに相反して、生まれる前の世界を平面的でどこか幾何学的な模様のようにデザインしている。ふたつの世界に差異を出すことによって、観客に死生観や哲学をぐっと近づける役割を担っているのだ。
伝統や文化、哲学など、多角的な分野で「死」を描くことによって、それぞれが「死」についての概念や意識を持っているのだということが分かってくる。それはダイバーシティを尊重する現代において重要なことであり、なぜなら自分とは違う価値観を持って生きている人がいると知ることができるからだ。
ここからは『リメンバー・ミー』を語る上でも不可欠なテーマとなっている「家族」について考えていきたい。
2021年公開のディズニー最新作『ミラベルと魔法だらけの家』に登場するマドリガル家は、祖母のアルマを最年長とした一族が代々魔法の力を宿している。そんななか主人公のミラベルは、ただひとり魔法が使えない女の子として生まれた。ゆえに家族の構成員として認められず、一家で写真を撮るシーンではひとりファインダーの外にいる。
「私だって魔法が欲しいの」と歌うミラベルの姿は、『リメンバー・ミー』の序盤で祖母のエレナに「音楽は禁止」と頑なに禁じられ悲しむミゲルの姿と重なる。
家族の音楽に対する憎しみは、高祖母のイメルダがミュージシャンによって、とてもつらい思いをさせられたことから生まれてきたと思います。その苦痛は、時とともに大きくなり、将来の世代にまで影響を与えました。
『リメンバー・ミー』共同監督・脚本・作曲 エイドリアン・モリーナ ※1
これは『ミラベルと魔法だらけの家』で過去に辛い経験をしたアルマが、地域への貢献や一家を繁栄させるために魔法を使うよう家族に求める姿に通じる。完璧さを求められたり、しきたりやルールを強制される主人公の存在が、現代のティーンエイジャーに重なる部分もある。家族というもっともミニマルなつながりで窮屈さを感じている若者たちにとって、彼らの存在は身近なものであり、共感を呼ぶのではないだろうか。
家族についての物語は散々作られてるから、他とどう差別化できるのかを考えた。それで、家族の素晴らしさを描いた映画はたくさんあるけど、家族の大変さ、家族の難しさを伝える映画は少ないことに気づいたんだ。
『ミラベルと魔法だらけの家』監督 バイロン・ハワード ※2
なんの問題もない家族愛ばかりを描くのではなく、現代に呼応する複雑さや難しさを描くことで、全ての観客に寄り添おうとしている。ピクサーやディズニーはそんな作品を世に送り出す担い手なのであり、今後もより良い作品を創り続けるためのアップデートは続いていくだろう。
参考
1. https://www.cinemacafe.net/article/2018/03/26/56072.html
2. https://www.moviecollection.jp/interview/113573/
■放送情報
『リメンバー・ミー』
日本テレビ系にて、3月4日(金)21:00〜22:59放送
監督:リー・アンクリッチ
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:マイケル・ジアッキーノ
声の出演:石橋陽彩、藤木直人、橋本さとし、松雪泰子、磯辺万沙子、横山だいすけ、多田野曜平、渡辺直美
(c)Disney/Pixar