いしづかあつこ監督が新作『グッバイ、ドン・グリーズ!』で描いた『よりもい』との違い

 設定だけ見れば男子版の『よりもい』とも取られそうな『グッバイ、ドン・グリーズ!』だが、その実、いしづか監督が描こうとしたのは全く違うものであることがわかる。それは、『よりもい』はあくまで目的に向かう物語だったことに対し、『グッバイ、ドン・グリーズ!』は目的のその後が語られる話だからだ。あらゆる物語は、基本的に“過程”を描く。片思いの相手と結ばれるまで、いかにして敵に勝利するか、その道筋にこそドラマが生まれるのであり、大団円を迎えてしまえば語るべきことはそう多くはない。まれに後日談が挿入されることもあるが「めでたし、めでたし」以上の展開はそれまでのドラマのカタルシスに比べればあくまでオマケ。シリーズ化されるとしても、その時には新たな目的が生まれている。だが、『グッバイ、ドン・グリーズ!』ではあえて冒険のその後に焦点を当てた。ある出来事が、どのようにその人物の人生を変えたか。今度は変化の“過程”を緻密に描写していく。この展開はジュブナイルものにしてはかなり斬新だと言えよう。

 しかし、だからこそ、本作の後味は特別なものとなっている。むしろその後がやたらリアルに描かれることで、若干のファンタジーっぽさがなりをひそめ、現実の地続きの物語として意識できるようになる。筆者がインタビューした際、いしづか監督は「『スタンド・バイ・ミー』の1年後を描きたかった」(※1)という趣旨の発言をしているが、本作はまさにあの主人公が作家を目指すまでの話であり、生まれ育った小さな町の外に広大な世界が広がっていることを知る話でもあるのだ。

 とはいえ本作は、構造の面だけではなく、登場人物の緻密な感情のやり取りや映像の美しさも見応え十分。何よりラストの伏線回収には唸らされるし、2度、3度と観たくなるような仕掛けにもあふれている。『よりもい』に次ぐ本作で、いしづか監督は青春ドラマの語り手としての地位を確固たるものにしたと言えよう。

 作中でたびたび使用される“宝物” というキーワードのごとく、この作品もまた観客の“宝物”になることを願ってやまない。

参考

1.Vol.2『グッバイ、ドン・グリーズ!』いしづかあつこ監督 | ぴあエンタメ情報
https://lp.p.pia.jp/article/news/219575/index.html

■公開情報
『グッバイ、ドン・グリーズ!』
全国公開中
出演者:花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩、花澤香菜、田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、指原莉乃
監督・脚本:いしづかあつこ
キャラクターデザイン:吉松孝博
美術監督:岡本綾乃
美術ボード制作協力:山根左帆 美術設定:綱頭瑛子、平澤晃弘
色彩設計:大野春恵
撮影監督:川下裕樹
3D監督:廣住茂徳、今垣佳奈
編集:木村佳史子
音楽:藤澤慶昌
音響監督:明田川仁
音響効果:上野励
アニメーション制作:MADHOUSE
主題歌:[Alexandros]「Rock The World」
配給:KADOKAWA
製作:グッバイ、ドン・グリーズ!製作委員会
(c)Goodbye,DonGlees Partners
公式サイト:https://donglees.com/
公式Twitter:@gb_donglees

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