池松壮亮×伊藤沙莉×尾崎世界観が語り合う、『ちょっと思い出しただけ』の大切な時間
松居大悟監督、池松壮亮、尾崎世界観(クリープハイプ)。10年以上にわたって舞台やMV、映画でコラボレーションしてきたメンバーが、飛ぶ鳥を落とす勢いの伊藤沙莉を加えて放つ最新作『ちょっと思い出しただけ』が、2月11日から公開された。
本作は、ジム・ジャームッシュ監督の名作『ナイト・オン・ザ・プラネット』を愛してやまない尾崎が書き上げた新曲「ナイトオンザプラネット」を松居監督に送ったことがきっかけで生まれた。この楽曲に触発された松居監督が作り出したのは、2015年から2021年という6年間を“ある一日だけ”で描く物語。ケガでダンサーを諦め、照明技師として働く照生(池松壮亮)と、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)。様々な出会いと別れを切なくも美しく描いた『ちょっと思い出しただけ』は、2021年の第34回東京国際映画祭で観客賞とスペシャル・メンションをW受賞した。
リアルサウンド映画部では、池松、伊藤、尾崎の座談会をセッティング。今回が初共演となる池松と伊藤の撮影の思い出や、ミュージシャン役で出演もしている尾崎の体験談など、舞台裏を語ってもらった。(SYO)
尾崎世界観は本作において“妖精”?
――池松さん、尾崎さん、松居監督3人のコラボは2012年の舞台『リリオム』からかと思いますが、これまで多くの形態で作品を作り続けてこられたのは、それぞれの感性に共通するものがあるのでしょうか。
尾崎世界観(以下、尾崎):全く同じというよりは、自分が思ったことを一回当ててみてどうだろうという作業を毎回試している感じがあります。「これってどういう感覚なのかな?」というのを池松くんの感覚を通して確認しています。
池松壮亮(以下、池松):そうですね。僕は昔から、尾崎さんの解釈をそのまま受け継ぐことは恐らくできていないのですが、引き受けたうえで「自分はこう思う」、今の自分ならこうなるということを提示させてもらっているように思います。今回久しぶりに再会して、それをより深くやれた気がしてとても嬉しく思っています。
――伊藤さんは本作に際して「松居大悟×池松壮亮×クリープハイプという私にとってかなり熱いゴールデンタッグ」とコメントされていましたね。
伊藤沙莉(以下、伊藤):好きの集合体ってすごいじゃないですか。個人個人で皆さんのことを素敵だなと思っていましたし……。人についてはお会いするまではわからないけど、皆さんの作った作品を観てそう感じていました。
――伊藤さんはある種、出来上がった関係性の中に入るという形だったのかなと思います。ご自身のお気持ちはいかがでしたか?
伊藤:最初はとにかく「がっかりされたくない」という気持ちでいっぱいでした。自分がすごく才能を感じている人たちと一緒にものを作るって、怖いじゃないですか。「うわ、大したことない」と思われたくないですし、観る側の目線から一緒に作るとなったとき、それぞれがどういう感性を持っている人かは知らないから、現場に入る前は散々吐きそうになりました。そしてちょっともう諦めたんです(笑)。「嫌うなら嫌ってください」くらいのテンションでいったら、一番楽しかったですね。そんなバチバチした現場でもなかったですし、いい熱さがありつつ居心地がよかったです。
池松:松居さんは現場やチームを大事にするので、みんなが意見を言いやすい環境ですし、「楽しい」と言う方が圧倒的に多いですよね。ただ映画は楽しいだけじゃできないから、みんなで深めながら、瞬間瞬間を重ねていい時間を刻んでいった印象があります。この作品自体、時間を刻んでいく映画ですしね。そこにたまに尾崎さんが来てくれると、みんながすごく湧きますし、2週間という短期決戦ながらも集中した現場だったと思います。
尾崎:映画の現場に行かせていただいたのは初めてだったので、すごく楽しかったです。そして今回は、伊藤さんがいてくれたからこそ成り立った作品だとも思っています。3人(尾崎・池松・松居)でよくやっているとある程度認識していただいてはいますが、実際3人で会うのは6・7年ぶりくらいで。その合間に密な交流があったわけでもなく、そんな3人がもう1回集まることに、実はすごくプレッシャーを感じていました。せっかく集まったのにこんなものかよと思われたらどうしようというのは、3人から伊藤さんに対しても、そしてお客さんに対してもあったんです。止まったまま埃をかぶった関係性をどうするかと悩んでいたし、高円寺のシーンで池松くんに久々に会ったときは、自分自身、すごく緊張していました。(池松に)どうだった?
池松:いやぁ、緊張しましたね。伊藤さんには確かそのときに話したのですが、何年ぶりかに会うわけですし何だかソワソワしていましたね。自分の青春時代、20代前半は本当によく一緒にいたし、それぞれの仕事をしながら色々な感覚を共有していました。それをまさか伊藤さんが作品として観てくれているなんて当時は知らなかったし、「誰が観ているんだろう」と思いながらも(笑)、新しいものを求めてやっていて……。そして「ナイトオンザプラネット」という原点に戻りながらも青春との明確な決別をするクリープハイプの曲を聴かせてもらって、「あ、再会したいな」と感じました。
尾崎・伊藤:(笑)。
――尾崎さんは今回映画に出演されてみて、“演じる”という点に関してどんな感覚を抱きましたか?
尾崎:いやぁ、本当に自分のいつもの感じで喋っているだけです。あぁ、でも伊藤さんと喋るときはどうしていいかわからなかった……(笑)。
伊藤:なんでですか(笑)。
池松:確か声が裏返ったんでしたっけ?
尾崎:むせたの(笑)。「伊藤さんに怒られるんじゃないか……」とすごく不安だった(笑)。
伊藤:(笑)。
池松:カットがかかるたびに「俺どうだった?」って聞いてくるんですよ。
尾崎:いやだってわかんないんだもん!(笑) 演技って何なのかわからないし。でも、あんまり出してもらえなかったら、それはそれで文句言ってたと思います(笑)。
池松:(笑)。いや本当に素晴らしかったですよ。尾崎さんはこの映画において妖精みたいな存在でした。照生と葉が再開するきっかけにも、付き合うきっかけにもなっていてふわっと現れて2人を媒介してつないでいく。ジャームッシュ映画におけるトム・ウェイツ的な出方とも言えますね。