『妻、小学生になる。』に投影された、夢を見ながら現実を生きる“私たちのリアル”

 だからこそ夢のような時間だけれども、現実の続きであることを見つけたくなる。今、目の前にいるベルーガは10年前に見たのと同じベルーガだと信じよう。40年生きることもあるというベルーガの生態を調べて、そう話す新島家の必死さが、いつ離れてしまうかもしれない万理華の体と貴恵の魂とを、懸命に結びつけようとしているように見えて切なくなった。

 この先どうなるかはわからないという直感は、圭介よりも何が起こるかわからない“若さ”のド真ん中にいる麻衣のほうが感じているのかもしれない。なぜなら彼女自身、ついこの前までまさか自分が就職を果たし、初取引先の蓮司(杉野遥亮)から人知れず重ねている努力を認めてもらう喜びを知るなんてこと、想像もしていなかったはずだ。

 でも、あるきっかけで人生は大きく変わっていく。だから、貴恵の記憶を持つ万理華だって、この先どんな変化が待っているかわからない。万理華に想いを寄せる同級生のタケル(川口和空)をチラつかせて母娘でキャッキャしてみせるが、それは半分冗談で半分真実。「こうなったらいいな」を夢見ながら、「こうなってしまった」の現実を生きる、私たちのリアルだ。

 それでも今を精いっぱい大切に生きることを誓うように、3人は手作りの婚姻届を書く。証人は娘の麻衣。もちろん夫は圭介、そして妻の欄には「新島貴恵」の名前。「白石万理華」ではないところがなんとも複雑なところだが……。

 10年間の貴恵の死から時が止まった新島家は確実に変わり始めている。そして、その影響は徐々に万理華の現実にも波紋のように広がっていく。貴恵との結婚を信じて疑わない圭介は「いつかご両親にもご挨拶を」なんて浮かれっぷりを見せていたが、予期せぬタイミングで千嘉と遭遇することに。小学生の子どもを夜まで連れ回した非常識とも取れない形であったため、穏やかな「ご挨拶」とはならなさそうだ。

 また、貴恵の弟・友利(神木隆之介)も万理華に叱咤されることで、再び漫画家という目標と向き合い始めようとしていた。どうやら、そこから万理華が実は同級生のヒマリ(飯田晴音)としていた漫画の交換ノートにまつわる相談を受けることになるようだ。さらに友利は「生まれ変わり」というキーワードとともに気になる中学生・出雲凜音(當真あみ)を見つける。この2人が接触することで、また新たな変化が起きていく。

 出会いと別れは常に背中合わせ。どんなに愛している人でも、いつかは旅立つ。それを知っていても、そんな悲しい事実には目をそむけて生きてしまうのが人間だ。この物語もそう。今はどんな未来が待ち受けているのか、できれば悲しい結末は考えたくない。だが、「もったいない生き方をしないで」と貴恵の思いを代弁する万理華の言葉を聞くたびに、この「生まれ変わり」が起きた意味を、再会の喜びの向こうにある現実的な意味と、向き合わなければならないのではと心がヒリつく。

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

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